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ロシアのカスピ海沿岸の町デルベント近くの浜辺に、翼を持つ船が横たわっている。全長は70メートル(230フィート)を超える。背中には対艦ミサイル「モスキート」の発射筒が6本並び、機首近くには8基のジェットエンジンが固まって据えられている。これがルン級エクラノプランだ。この種の機体として軍艦に配備された唯一の存在である。2020年夏、軍港の町カスピースクからテーマパーク予定地へ曳航される途中、波打ち際で立ち往生し、陸に上がれたのは2021年の暮れになってからだった。

一方、米ロードアイランド州のナラガンセット湾では、遠い親戚が飛び始めた。REGENT社の完全電動機Viceroyが2026年9月2日、2人の船長を乗せて水面を離れたのだ。2人の名前は公表されていない。パイロットではなく船長である。時速180マイル(約290キロ)を想定して設計された機体が、米国の規則でも国際規則でも航空機ではなく船舶として扱われるからだ。操縦は短い追加講習を受けた有資格の船員でもでき、監督するのは連邦航空局(FAA)ではなく沿岸警備隊になる。

ソ連とともに消えたアイデアが、バッテリーを積んで戻ってきた。60年で多くが変わった。ただし、そのうちいくつかはまだ約束にすぎない。

自分でふくらませる空気のクッション

地面効果はパイロットなら誰でも知っている。翼が地面や水面すれすれを進むと、翼の下の空気が押しつぶされ、下や横へ逃げきれなくなる。揚力が増え、抗力が減り、飛ぶのが安上がりになる。いわば翼は、自分でふくらませた空気のクッションに乗っているわけだ。効果が続くのは機体が水面から翼幅ひとつぶん程度の高さにいるあいだで、それよりずっと低いところで最も強くなる。

ソ連の技術者たちは、そこに新しい乗り物の姿を見た。主任設計者ロスチスラフ・アレクセーエフがつくった機体に、西側は「カスピ海の怪物」というあだ名をつけた。初飛行は1966年10月16日。全長92メートル(約300フィート)、離陸重量544トン、ターボジェットエンジン10基。1988年にアントノフAn-225が飛ぶまで、世界最大の航空機だった。米国の情報機関は偵察衛星の画像でこれを見つけ、何に使うものなのか何年も頭を悩ませた。

いちばん多くを物語るのはエンジンの数だ。10基のうち8基は機首近くにあり、離水滑走のときしか動かなかった。500トンを水から引きはがすには、いったん浮いた機体を運ぶよりはるかに大きな推力が要ったのである。空中に上がると、その8基は止まる。以後の飛行中、エンジンの大半は離水のためだけに積んでいるお荷物だった。

怪物たちが根づかなかった理由

この一族には共通の弱点があった。波である。地面効果は水面の近くでしか働かない。エクラノプランは高度を上げて嵐を上空でやり過ごすことができず、そこそこ荒れた海でも港から出られなかった。New Atlasが指摘するように、エクラノプランは外洋を低速で進むと縦揺れが不安定になり、操縦性も悪かった。カスピ海の怪物は1980年に事故を起こし、沈んだ。ルンは1987年から1990年代後半までカスピ小艦隊に所属したが、IEEE Spectrumの言葉を借りれば、エクラノプランの時代はソ連とともに終わった。REGENTの新しい機体は、最大1.5メートル(約5フィート)のうねりに耐えるよう設計されている。その答えは機体のつくりにある。

ソ連のエクラノプランは波に敗れ、国とともに終わった
ソ連のエクラノプランは波に敗れ、国とともに終わった

浮く、翼走、飛ぶ

ロードアイランド州に本拠を置くREGENTは2020年に創業した。ルンがデルベントへ引きずられていったのと同じ年だ。CEOのビリー・タルハイマーはMITで航空宇宙工学を学び、曲技飛行もこなし、Aurora Flight Sciences、Blue Origin、Virgin Galacticで働いてきた。彼は自社の使命を、地面効果の技術の「ほこりを払って」沿岸で活躍させることだと語る。

怪物が8基もの余分なエンジンに頼ったところを、Viceroyは水中翼でまかなう。怪物にとって最も苦しい瞬間は、重い船体を水から引きはがすことだった。Viceroyは、まだボート並みの速度のうちに船体を水から持ち上げてしまう。低速では水に浮かび、速度が上がると水中翼に乗って船体が浮き上がる。水の抵抗が減り、タルハイマーによれば飛行への移行もなめらかになる。これでどれだけ推力が節約できるのか同社は明かしていないが、機体は水面からではなく水中翼から離陸する。REGENTはこの一連の流れを三語でまとめている。浮く、翼走、飛ぶ(float, foil, fly)。

推進力は翼の前縁に並ぶ12基の電動モーターだ。電源は約500kWhのバッテリーで、テスラ・モデルS約5台ぶんに相当する。客室は乗客12人に乗員2人。

最も難しいのは水中翼走行から飛行への切り替えで、時速約60〜84キロ(37〜52マイル)のあたりで起こる。このとき機体は、IEEE Spectrumの記者ローレンス・ウルリッチの表現では「船としては速いが、航空機としては極端に遅い」状態にある。ウルリッチはREGENTの工場で、周囲を画面が囲む2人乗りのViceroyシミュレーターに乗り込み、マウイ沖の仮想の港で機体を操った。中央のレバーで速度を決め、ジョイスティックで舵を取る。モードの切り替えはほぼ勝手に進んだ。水中翼モードでは船体が仮想の波の上に浮き、それから機体は約10メートル(33フィート)の高さまで上昇して飛行に移った。翼幅のおよそ半分にあたり、この機体にとって最適の巡航高度だ。移行のあいだ自分はただの傍観者だった、とウルリッチは認める。三重冗長のデジタル制御システムが、機体を水平に保ち、適切な高度を維持してくれるからだ。

湾の上の30秒

初の有人飛行は短かった。とても短かった。REGENT自身の発表によれば、Viceroyは水面上約10メートルを30秒で596メートル進んだ。距離を時間で割ると、平均で時速約72キロ、45マイルほどになる。同社は速度を公表しておらず、この数字は単純な割り算だ。だがこれは、水中翼から飛行へ切り替わる速度域のど真ん中に収まる。つまり初の有人飛行は最も難しい瞬間をかろうじて越えたところで、約束の時速180マイルにはまだ遠く及ばない。それでも同社によれば、人を乗せたものとしては史上最大の完全電動地面効果機だという。

「この5年半、私たちが思い描き、たゆまず追い求めてきた瞬間です」と、タルハイマーは飛行後に語った。共同創業者でCTOのマイク・クリンカーは、機体は設計どおりなめらかに、安全に飛んだと付け加えた。

4週間後の9月30日、Viceroyは5回目の飛行を、今度は公開で行った。ノースキングスタウンにある同社の新工場でのデモ飛行には、600人を超える人が見物に訪れた。延べ床面積25万5000平方フィートの工場は、フル稼働すれば年に旅客用Viceroy 75機と無人ドローンSquire 300機を生産する計画だ。「技術も需要も証明した。あとはつくるだけだ」とタルハイマーは言う。

// 当時と今

カスピ海の怪物(1966年)

  • ターボジェットエンジン10基、うち8基は離水滑走専用
  • 離陸用エンジンの推力で水から抜け出す
  • 操縦はテストパイロット

Viceroy(2026年)

  • 翼に電動モーター12基
  • 水中翼で浮上し、そこから離陸する
  • 操縦は有資格の船長、監督は沿岸警備隊

法律上は「船」という飛行機

この物語でいちばん奇妙な部分は、水の上ではなく書類の上で起きている。Viceroyの操縦席に座るのは船乗り、検査するのは沿岸警備隊、空港も要らない。すべては国際海事機関(IMO)の規則に由来する。地面効果の範囲にとどまり、そこを離れるのは短い跳躍のときだけという機体は、海事法の管轄になる。船と同じ衝突予防規則に従い、ボートやフェリーに道を譲る。航空の規則が適用されるのは、高く長く飛び続けられる機体だけだ。

米国では、旅客用シーグライダーを検査するのは航空当局ではなく沿岸警備隊ということになる。2026年4月、議会は沿岸警備隊にこうした機体を認証・検査する体制を整えるよう指示し、そのための予算として要求額に250万ドルを上乗せした。REGENTはViceroyが小型旅客船として認証されると見込んでいる。

REGENTにとって、この違いはとてつもなく大きい。電動の垂直離着陸エアタクシーは、航空機としての認証や空域をめぐる争いで足止めを食い続けている。REGENTは、甲板部の最上級資格を持つ船長(マスター・マリナー)の中からViceroyの船長を採用し、追加訓練を施せばいい。旅客機のパイロットを育てるには、はるかに長い時間と費用がかかる。ただし問題が完全に片づいたわけではない。2024年のFAA再授権法は、FAAと沿岸警備隊に、どちらが何を担うかで合意するよう求めている。

書類上Viceroyは船舶なので、監督するのは航空当局ではなく沿岸警備隊だ
書類上Viceroyは船舶なので、監督するのは航空当局ではなく沿岸警備隊だ

大きな約束、ずれ込む日程

地面効果機には大きな数字がつきものだ。REGENTも例外ではない。2021年4月、最初の900万ドルを調達したとき、同社は2025年までに初の乗客を乗せ、ボストン〜ニューヨークのような路線を飛ぶつもりだった。それがいまや2026年も残りわずかで、REGENTが約束する初納入は早くても2027年末だ。

同社によれば受注は6大陸にまたがるが、機数は示されていない。IEEE Spectrumは受注残を100億ドルとしているが、この数字の出どころもまたREGENTだ。最も具体的な顧客は沿岸の高級旅行を手がける米国のThe Twenty Fiveで、北東部とフロリダの路線向けにViceroyを「最大60機」発注した。投資家がすでに出資した、あるいは出資を約束した額は3億4000万ドルを超える。

狙うニッチそのものは理にかなっている。タルハイマーが語るのは「車で行くには遠すぎ、飛行機で飛ぶには近すぎる」路線だ。たとえばニューヨークから海辺の町が並ぶハンプトンズへ、あるいはハワイの島から島へ。IEEE Spectrumの計算では、標準的な旅客フェリーはViceroyが約束する速度のおよそ9分の1しか出ない。ただしバッテリーのせいで航続距離は約180マイルにとどまる。一方、ジェットエンジンのルンは約1200マイル飛べた。

いつも滑走路の上

最後のルンは波打ち際で動けなくなった。Viceroyの本当の試練が待つのも同じ場所だ。波の上、外洋で、乗客を乗せ、悪天候の中で。穏やかな湾の上での30秒は、それについてまだ何も証明していない。

それでもシーグライダーには、どんな飛行機も持ち得ない強みがひとつある。最寄りの空港までたどり着くための予備を残しておかなくていい。何かあれば、いま飛んでいる水面にそのまま降りればいい。タルハイマーはそれを一言で表す。「着陸場所は、いつも真下にある」