<?xml version="1.0" encoding="utf-8" standalone="yes"?><rss version="2.0" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:media="http://search.yahoo.com/mrss/" xmlns:georss="http://www.georss.org/georss"><channel><title>犯罪 on FUTURMAG</title><link>https://futurmag.com/ja/tags/%E7%8A%AF%E7%BD%AA/</link><description>FUTURMAGは、明日の当たり前になる技術を伝えるマガジンです。AI、ロボットとガジェット、バイオテック、新しい経済。すでに動いているものと、大きな約束を切り分けます。</description><generator>Hugo</generator><language>ja-JP</language><lastBuildDate>Sat, 24 Oct 2026 02:04:00 +0300</lastBuildDate><atom:link href="https://futurmag.com/ja/tags/%E7%8A%AF%E7%BD%AA/index.xml" rel="self" type="application/rss+xml"/><item><title>AI楽曲の1日分は半年かけても聴ききれない。聴いているのは主にボット</title><link>https://futurmag.com/ja/ai/one-day-of-ai-songs-takes-half-a-year-to-hear-deezer-bots/</link><guid>https://futurmag.com/ja/ai/one-day-of-ai-songs-takes-half-a-year-to-hear-deezer-bots/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 02:04:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>Deezerには1日9万曲のAI生成トラックが届く。再生にどれだけかかるのか、誰が聴いているのか、ボットがどう使用料を稼ぐのかを計算した。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>AI楽曲の1日分は半年かけても聴ききれない。聴いているのは主にボット</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>AI楽曲の1日分は半年かけても聴ききれない。聴いているのは主にボット</figcaption></figure><p><a href="https://www.deezer.com/">Deezer</a>
に1日で届くAI生成曲をすべて、1月1日から再生してみよう。一睡もせずに聴き続けても、最後の曲が終わるのは7月7日だ。同サービスには、完全にAIが生成したトラックが1日に約9万曲アップロードされている。新着楽曲の半数以上だ。そして、その主な聴き手はボットである。</p>
<p>2026年10月13日、Deezerは年内にアプリへ<a href="https://newsroom-deezer.com/2026/10/deezer-ai-music-toggle/">トグル</a>
を追加し、この種の音楽を検索結果から除外できるようにすると発表した。ちょうどいい機会なので、AI音楽が実際にどれほどあるのか、誰のためのものなのかを計算してみよう。誰がそれで稼いでいるのかを知るには、10月6日に懲役18カ月を言い渡された男の話がいちばんわかりやすい。彼は自分宛てのメールで、手口を細かく書き残していた。</p>
<h2>出発点となる数字</h2>
<section class="fm-stats"><p>// 計算の材料</p>
<b>≈90,000</b>2026年6月に1日あたりDeezerへ届いた、完全AI生成トラックの平均数。過去最多の月だ

<b>50%&#43;</b>1日の新着アップロードのうち、そうしたトラックが占める割合

<b>42M</b>2025年1月から2026年8月までに検出され、レコメンドから外されたAIトラックの数

<b>1–3%</b>Deezer全体の再生のうち、完全AI生成の音楽に向かう割合

</section>

<p>これらの数字はすべて<a href="https://newsroom-deezer.com/2026/07/ai-music-exceeds-50-percent-daily-uploads-deezer/">Deezer自身</a>
の発表によるもので、第三者の監査は入っていない。同社が数えているのは、検出システムが「完全にAI生成」と判定したトラックだけだ。人間のミュージシャンがAIを補助に使った曲は含まれない。</p>
<p>AIトラックの平均の長さをDeezerは公表していない。そこで、ふつうのポップスの数字を物差しとして借りる。2024年のSpotifyチャートに入った曲の平均は<a href="https://www.hypebot.com/hypebot/2025/04/songs-are-getting-shorter-and-the-surprising-truth-behind-it.html">約3分</a>
だった。これがこの計算の最大の仮定で、あとでもう一度触れる。</p>
<h2>1日分のアップロードは半年鳴り続ける</h2>
<p>9万曲×3分で、27万分。4,500時間、つまり187日半になる。1月1日の午前0時に再生を始めると、最後の曲が終わるのは7月7日の正午ごろだ。</p>
<p>誰も寝ずに聴くことはできないので、もう少し穏当な計算もしておこう。週40時間の勤務時間だけで聴くなら112週間かかる。休暇なしで2年以上だ。人間が録音した音楽もそこに足せば、1日分のアップロードだけで、ほぼ1年間鳴り続ける。</p>
<p>しかも、その間もDeezerには毎日さらに9万曲が届き続ける。</p>
<h2>4,200万曲、1786年から続くコンサート</h2>
<p>次はアーカイブ全体だ。2025年1月以降、Deezerの検出システムは完全AI生成のトラックを4,200万曲以上見つけている。1曲3分なら1億2,600万分、210万時間。24時間と365日で割ると、約240年ぶっ通しで鳴り続ける計算になる。</p>
<p>1786年、モーツァルトの『フィガロの結婚』がウィーンで初演された年に誰かが聴き始めていたら、ちょうど今ごろ聴き終わるところだ。しかもこのアーカイブがたまるのに、2年もかかっていない。2025年1月に1日約1万曲だった生成トラックの流入は、2026年6月には9倍に膨らんだ。</p>
<h2>見積もりが外れうる場所</h2>
<aside class="fm-note fm-note-warn"><p>// 注意</p><p>1曲3分というのは仮定にすぎない。AIの曲が平均2分なら、数字はすべて3分の1縮み、半年は4カ月になる。4分に近ければ、8カ月に延びる。</p>
</aside>

<p>9万という数字は、記録的な6月の1日平均だ。春はもう少し少なく(4月は1日7万5,000曲)、10月になってもDeezerは「9万近く」と言っている。ほかのサービスはここまで詳しい数字を出していないので、この計算をそのまま当てはめることはできない。もっと多いかもしれないし、少ないかもしれない。</p>
<p>それでも、桁は多少の補正では変わらない。半分に見積もり直したとしても、1日分のAIアップロードは数カ月、アーカイブ全体は1世紀以上鳴り続ける。</p>
<h2>実際に聴いているのは誰か</h2>
<p>ここで規模の話が逆転する。完全AI生成の音楽が、Deezerの再生に占める割合は1〜3%にすぎない。2026年1月、同社は2025年にはこうしたトラックの再生の最大85%が不正だったと<a href="https://newsroom-deezer.com/2026/01/deezer-confirms-demonetization-of-ai-music/">発表した</a>
。再生したのはボットで、Deezerはそれらの再生を使用料の支払い対象から外した。</p>
<p>Deezerのランダムな1,000再生を取り出してみよう。そのうち10〜30回がAIトラックだ。不正の割合を上限の推定どおりとすれば、本物の人間がAIの曲を自分で選んで再生するのは、1,000回あたり1.5〜4.5回ということになる。新着音楽の半分以上が、本物の関心をコンマ数パーセントしか集めていない。</p>
<p>偽物だと気づいた人が聴くのをやめているわけではない。Deezerが2025年11月にIpsosと行った調査では、8カ国の<a href="https://newsroom-deezer.com/2025/11/deezer-ipsos-survey-ai-music/">参加者9,000人のうち97%</a>
が、2曲のAI楽曲と人間が録音した曲を聞き分けられなかった。理由は別のところにあるらしい。Deezerはこうしたトラックをアルゴリズムによるレコメンドや編集プレイリストに入れていない。それがなければ、曲にたまたま出会うことはほとんどできない。</p>
<h2>誰も聴かない音楽を、なぜアップロードするのか</h2>
<p>アメリカのミュージシャン、マイケル・スミスの事件が、その答えをうまく示している。彼は2017年から2024年にかけて、「Calm Baseball」「Calorie Screams」「Camel Edible」といった架空の名義で、AI生成の曲を数十万曲アップロードし、最大1万台のボットに再生させた。2026年10月6日、ニューヨークの連邦裁判所は彼に懲役18カ月を<a href="https://www.musicbusinessworldwide.com/man-behind-8m-ai-song-and-bot-streaming-fraud-is-sentenced-to-18-months-in-prison/">言い渡した</a>
。検察の求刑は最低46カ月だった。「私が深く大切に思う音楽コミュニティを裏切りました」と、スミスは法廷で<a href="https://www.musicradar.com/music-industry/i-betrayed-the-music-community-i-care-so-much-about-streaming-fraudster-sentenced-to-18-months-in-prison-for-streaming-fraud">述べた</a>
。彼は809万ドルを没収されることになる。</p>
<p>計算はスミス自身が書いている。2017年10月に自分宛てに送ったメールで、のちに起訴状に載ったものだ。レンタルのクラウドサーバーが52台。要するに、誰も電源を切らない52台のコンピューターだ。それぞれに20体のボットを置いて、「リスナー」は合計1,040。ボット1体が1日に再生できる曲は636曲、つまり2分15秒に1曲で、睡眠も週末もない。合計すると1日66万1,440再生になる。1再生あたり0.5セントという彼自身の見積もりで、年間およそ120万ドルだ。</p>
<p>量が重要なのは、そのためだ。1曲に100万回の再生が集中すれば、不正対策のシステムがすぐに反応する。2018年のメールでスミスは、<a href="https://www.musicbusinessworldwide.com/an-8m-streaming-fraud-two-plays-a-day-heres-the-pro-rata-math-behind-the-bot-scheme-and-the-rule-change-that-would-have-killed-it/">当局に目をつけられないために</a>
、再生数の少ない大量のコンテンツが必要だと説明した。1日66万1,440再生を30万曲に散らせば、1曲あたり1日約2回、年間で約800回になる。そんなトラックは、本物の何百万曲のなかに埋もれて見えなくなる。</p>
<p>まさにこうした手口を狙い撃ちにしたのが、Spotifyが2024年4月に導入したルールだ。過去12カ月の再生が1,000回未満のトラックには、使用料を<a href="https://support.spotify.com/co-en/artists/article/track-monetization-eligibility/">支払わない</a>
。このルールの下では、各トラックは年間で約200回足りない。支払いを受けるには、スミスはボットをもっと少ない曲に集中させなければならず、そうなれば見つかりやすくなる。</p>
<p>残るのは、これは誰のお金なのかという問いだ。ストリーミングサービスは自腹で払うわけではない。収益の一部を共通のプールに取り分け、再生回数の割合で分配する。偽の再生が1回増えるたびに、本物の再生1回分の取り分は小さくなる。本物のリスナーが1人もいない曲が、実際に聴かれているミュージシャンへの支払いから、その金を奪っていた。Deezerによれば、2025年にプラットフォーム全体の再生の8%が不正だった。放置すれば、プールのほぼ12ドルに1ドルがボットに流れていたことになる。</p>
<h2>まだ聴いている人のためのボタン</h2>
<p>Deezerのトグルは、完全AI生成のトラックとアルバム、それに紐づくアーティストを検索結果から隠す。同じIpsosの調査では、ストリーミング利用者の45%がそのようなフィルターを望んだ。DeezerのCEO、アレクシス・ランテルニエは、これでユーザーは完全AI生成の音楽を自分のストリーミング体験から完全に取り除けるようになると話している。</p>
<p>機械が曲を書き、機械が再生する。この連鎖のなかで人間が残っているのは、ただ一つの端、支払いが届く側だけだ。7月、Deezerはストリーミング不正に使われたAIトラックと、少なくとも6カ月間誰にも再生されていないトラックを削除すると発表した。ほとんど完璧な韻を踏んでいる。1日分のアップロードを聴き通すには6カ月以上かかり、6カ月間誰にも聴かれなかったトラックは消される。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>レースを速くした男が、いまは選手のショーツにエアバッグを縫い込んでいる</title><link>https://futurmag.com/ja/technology/aerobag-cycling-airbag-bert-celis-profile/</link><guid>https://futurmag.com/ja/technology/aerobag-cycling-airbag-bert-celis-profile/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 02:04:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>空力の専門家ベルト・セリスは、選手の死をきっかけに、ビブショーツのストラップにエアバッグを仕込んだ。プロトンが長く防具を拒んだ理由と、その変化。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>レースを速くした男が、いまは選手のショーツにエアバッグを縫い込んでいる</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>レースを速くした男が、いまは選手のショーツにエアバッグを縫い込んでいる</figcaption></figure><p>2019年8月の数か月前、ベルギーのエンジニア、ベルト・セリスは<a href="https://bikerumor.com/the-aerobag-zips-an-airbag-into-the-bib-shorts-of-pro-cyclists-for-increased-rider-safety/">若手選手のビョルグ・ランブレヒトを風洞に迎えていた</a>
。セリスの研究所にとっては、いつもの仕事だ。数ワットを稼げるポジションとウェアを探す。それから8月5日、ツール・ド・ポローニュの第3ステージで、22歳のランブレヒトは路外に飛び出し、コンクリートの暗渠に激突した。助からなかった。</p>
<p>「なぜ自転車乗りは、ヘルメット以外ほとんど身を守るものがないのかと考えた」と、<a href="https://qazinform.com/news/time-names-belgian-invention-as-one-of-worlds-best-in-2026-a792f0">セリスは振り返る</a>
。2026年10月、その答えはTIME誌の<a href="https://time.com/collection/best-inventions/2026/aerobag/">今年の優れた発明リスト</a>
に入った。重さ約500グラムのエアバッグで、サイクリング用ビブショーツのストラップに隠れ、100ミリ秒で展開する。ただ、この話でいちばん奇妙なのは別の点だ。キャリアを通じて選手の体重とワット数を削ってきた男が、今度は選手に重りを足そうとしている。しかも、ストップウォッチには響かないと言い切る。いつ作動させるかを判断するために、このエアバッグはベルギーの通信社が持つ、他人の落車の記録で訓練された。</p>
<h2>ワットの会計係</h2>
<p>セリスは、学歴ではエンジニア、仕事ぶりでは空力の専門家だ。風洞を軸にしたフランダースのサイクリング研究所「Flanders Bike Valley」を共同で立ち上げ、多くのプロチームと仕事をしてきた。</p>
<p>その仕事は簿記に似ている。選手が気流のなかで自転車にまたがり、センサーが空気抵抗を測る。技術者は肘を1センチずらし、肩の生地を替える。5ワットなら大漁だ。こんな端金のために、チームは特注のソックスを発注し、ヘルメットの形を削り、ホイールに大金を注ぎ込む。</p>
<p>ランブレヒトの死後、セリスが相談したのが、ベルギーのウェアメーカーBioracerで研究開発を率い、同社の風洞を作ったサム・ラタイチャクだ。Bioracerはプロチーム向けも含むレース用ウェアを作っている。2020〜2021年、ラタイチャクと工業デザイン専攻のインターン、ステイン・ファンボルセムは、<a href="https://road.cc/content/tech-news/airbag-bib-shorts-are-game-changer-safety-307627">コンセプトを形にした</a>
。ふつうのレース用ビブのストラップにエアバッグを仕込み、落車時に首、胸、背中、腰を覆うというものだ。</p>
<p>コンセプトは機能した。ただ、客は現れなかった。2024年になっても、すでに自分のデザインスタジオを率いていたラタイチャクは、このアイデアを選手の安全にとって転機になりうるものだと呼びつつ、チームの関心が限られていたことを認めている。</p>
<h2>死によって押し通されたヘルメット</h2>
<p>プロトンが冷ややかだった理由は、簡単に説明がつく。何十年ものあいだ、プロ自転車界は、快適さや速さを犠牲にする防具をことごとくはねつけてきた。</p>
<p>1991年、国際自転車競技連合(UCI)はヘルメットの着用義務化を試みた。選手たちはストライキを起こし、規則は棚上げになった。復活したのは2003年、カザフスタンの選手アンドレイ・キビレフがパリ〜ニースでヘルメットなしで落車し、翌日に亡くなってからだ。UCIは<a href="https://pedalmag.com/kivilev-tragedy-sparks-uci-helmet-declaration/">ヘルメットの義務化を宣言した</a>
が、それも妥協の産物だった。最初の規則では、5キロ超の最後の登りでヘルメットを脱いでもよかったのだ。この抜け道は、のちに塞がれた。</p>
<p>防護ウェアも同じ道をたどった。Bioracerは、落車でいちばん多いケガをやわらげるレースウェアを作れると説明した。しかし選手たちは、<a href="https://road.cc/content/news/bioracer-faces-kickback-pros-over-safer-racewear-307687">road.ccの報道によれば</a>
、慣れ親しんだ快適さと速さのほうを選んだ。</p>
<p>教訓は、どんな営業マンにも分かる。プロトンでは、安全はストップウォッチに何も響かないときにしか売れない。セリスがエアバッグを売り込もうとしたのも、まさにその方法だった。</p>
<h2>かつて速さを約束した500グラム</h2>
<p>2024年3月、システムがまだ試作品だったころ、セリスはベルギーの放送局Sporzaに<a href="https://sporza.be/nl/2024/03/28/maakt-de-airbag-zijn-intrede-in-het-wielrennen-extra-gewicht-maar-wel-veiliger-en-aerodynamischer~1711641395532/">こう語った</a>
。エアバッグの重さは500〜600グラム、満水のボトル1本分ほどだという。プロたちは快適さと重さを心配して、それまで断ってきた。そこでセリスは、空力屋の切り札を出した。システムを着けた選手は、より「しずく型」になる。時速50キロの平坦路なら、差は5〜15ワットになる。「それなら重さが増えても関係ない」と彼は言った。</p>
<p>プロトンには魅力的に聞こえたはずだ。速さのおまけ付きの防具である。現在の会社の物言いはもっと慎重だ。TIMEのリストをめぐる資料で、開発陣が約束しているのは別のことだ。エアバッグは<a href="https://qazinform.com/news/time-names-belgian-invention-as-one-of-worlds-best-in-2026-a792f0">空力に影響せず</a>
、ジャージの下ではほとんど目立たない。ワット数の上積みはもう語られず、どちらの主張も第三者による計測はされていない。もうひとつ注意がある。峠道では、空気がどれだけ滑らかに流れようと、500グラムは500グラムのままだ。</p>
<p>装置自体は控えめな見た目をしている。背中の小さなポーチに電子部品とCO₂ボンベが収まり、熱可塑性ポリウレタンの細いチューブがビブのストラップのなかを通っている。</p>
<section class="fm-stats"><p>// Aerobagの仕組み</p>
<b>9</b>個のモーションセンサーが、背中の角度、加速度、体の回転を追う

<b>200×</b>毎秒、システムがその動きは落車らしいかどうかを確かめる

<b>100 ms</b>あれば、エアバッグは首と胴体のまわりで膨らみきる

<b>9 cm</b>が、背中、肋骨、腰を覆って膨らんだクッションの厚さ

</section>

<p>システムは頭と肩を覆わない。これは意図的だ。ラタイチャクによれば、落車のあとも選手は自転車に戻ってレースを続けられなければならない。だから<a href="https://www.aerobag.eu/innovation">作動から約10秒後</a>
には、エアバッグは自然にしぼみはじめ、ストラップのなかに折りたたまれる。再利用するには、ボンベと点火装置を交換する。<a href="https://futurezone.at/produkte/aerobag-airbag-radlerhose-bib-shorts-rennradfahren-schutz-sturz/403123041">費用は約35ユーロ</a>
だ。一方、自動車のエアバッグは、ユニットごと丸ごと交換になる。</p>
<h2>他人の落車が教えてくれること</h2>
<p>エアバッグでいちばん難しいのは、生地でもガスでもない。いつ膨らませるかを決めることだ。</p>
<p>ゴールラインで自転車を投げ出す選手がいる。スプリンターは車体を左右に振る。通勤者は縁石を飛び越える。どれも落車ではないが、センサーにとってはどれも激しい動きだ。スプリントのさなかの誤作動はそれ自体が危険で、しかも作動しないエアバッグは、ないほうがましだ。偽りの安心感を生むからである。Sporzaは作動の閾値の考え方を<a href="https://sporza.be/nl/2026/01/18/picnic-postnl-test-belgisch-airbag-systeem-uit-voorlopig-op-training-volgend-jaar-misschien-in-koers~1768746332459/">こう説明している</a>
。路面を滑っているだけの選手では作動しないが、そのあとガードレールの向こうへ放り出されれば作動する。</p>
<p>Aerobagのアルゴリズムは、他人の事故をもとに作られた。ベルギーの通信社ベルガは、レースでの落車映像の大きなアーカイブを持っている。開発者たちは、その映像をAIモデルに<a href="https://www.cyclingnews.com/cycling-tech-components/this-is-going-to-save-careers-the-aerobag-airbag-system-could-dramatically-reduce-serious-cycling-crash-injuries-and-worldtour-teams-are-already-testing-it/">かけた</a>
。AIは肩、腰、肘といった目に見える関節から体の動きを再構成し、その軌跡が作動の閾値の調整に使われた。要するに、実験のために誰かが意図的に転ぶことなど決してない落車から、システムは学んだのだ。</p>
<p>スウェーデンの企業Hövdingは、これを誤ったときの代償を知っている。同社の都市向けエアバッグ・カラーは頭のまわりで膨らみ、ヘルメットの代わりとして売られていた。2023年11月、スウェーデン消費者庁は、落車時にカラーが展開しない恐れのある欠陥を理由に、Hövding 3の販売を止めた。<a href="https://en.brujulabike.com/hovding-goes-bankrupt-after-sales-banned/">2023年12月21日、同社は破産を申請した</a>
。その時点で裁判所は禁止措置を一時停止していたが、取締役会は、1か月も販売がなかった会社は救えないと判断した。エアバッグの評価は、開かなかった、たった一度で決まる。</p>
<p>Aerobagも同じ市場に向かっている。都市の利用者向けには、同じモジュールを載せたベルト「Aerobelt」を設計した。普段着の上から着けられる。マイクロモビリティに投資するファンドのFundracerは、<a href="https://zagdaily.com/micromobility/fundracer-backs-belgian-startup-developing-airbag-for-cyclists/">同社の少数株式を取得した</a>
。システムはまだ発売されていない。Aerobag共同創業者のクイントン・ヴァン・ロゲレンバーグは、<a href="https://newatlas.com/bicycles/aerobag-airbag-system-pro-cyclists/">価格を700〜850ユーロと見込んでいる</a>
。良いヘルメットより高く、多くのレース用ホイールセットより安い。</p>
<p>いまのところ、Hövdingの教訓は理論上のものにとどまる。システムは<a href="https://www.domestiquecycling.com/en/news/behind-the-aerobag-how-picnic-postnl-are-developing-cyclings-next-safety-breakthrough/">3Dプリントの選手人形で衝突試験を受けており</a>
、次の段階として挙げられているのは、柔らかい着地面への人間の転倒と、クラッシュテスト用ダミーだ。実際の事故でどれだけケガを減らせるかを示す公表データは、まだない。</p>
<h2>もう一度、転び方を学ぶ</h2>
<section class="fm-timeline"><p>// 年表</p><ol>
<li><time>2019年8月5日</time>ビョルグ・ランブレヒトがツール・ド・ポローニュ第3ステージで死去</li>

<li><time>2020〜2021年</time>ラタイチャクとインターンのファンボルセムが、Bioracerでビブのストラップ内蔵のエアバッグを構想</li>

<li><time>2024年</time>実働する試作品が完成するが、チームの関心は薄い</li>

<li><time>2025年</time>4人の共同創業者がトゥルンハウトでAerobagを設立、EUは約24万9000ユーロを出資</li>

<li><time>2026年1月</time>UCIが自転車競技でのエアバッグの規則づくりを決定</li>

<li><time>2026年10月15日</time>AerobagがTIME誌の今年の優れた発明リストに入る</li>

</ol></section>

<p>言葉の上では、関心は早くも2024年に現れていた。セリスがSporzaに語ったところでは、イギリスのチーム、イネオス・グレナディアーズがこのエアバッグを使いたがっていた。とくに、2022年1月にツール・ド・フランスの覇者エガン・ベルナルが練習中に停車中のバスに突っ込んだ、あの惨事のあとのことだ。</p>
<p>行動で最初にシステムを受け入れたのは、オランダのチーム、ピクニック・ポストNLだった。プロジェクトの背後にいるのは元プロのピート・ロイヤッカースだ。チームはすでに、擦過傷を耐摩耗性のウェアで減らす対策を済ませており、次の標的として肋骨、骨盤、鎖骨の骨折を挙げた。着想の元はバイク乗り向けエアバッグのInstagram動画で、それがロイヤッカースをセリスへと導いた。彼は<a href="https://wielerrevue.nl/artikel/676054/een-airbag-tegen-de-veel-voorkomende-sleutelbeenbreuk-rooijakkers-alleen-op-het-moment-als-je-echt-vertrouwt-op-die-airbag">期待を冷静に抑えている</a>
。エアバッグが鎖骨を守れるのは、選手が本当にそれを信頼し、腕を引っ込めたままでいるときだけだ。ところが、転ぶとき、たいていの選手は反射的に手を突き出す。選手は転び方をもう一度学び直すことになりそうだ。2026年には、ピクニック・ポストNLとヴィスマ・リースアバイクがトレーニング用にシステムを受け取り、イタリアのウェアメーカーNaliniは、Aerobag認証の初のビブショーツを計画して、プロジェクトに<a href="https://www.cyclingweekly.com/products/major-kit-brand-investing-in-airbag-tech-as-worldtour-teams-start-testing">出資した</a>
。</p>
<p>このレースを走っているのはセリスだけではない。2026年春、デカトロンの自転車ブランドVan Ryselは、エアバッグ内蔵のレース用スキンスーツを発表した。エアバッグ込みでスキンスーツの重さは約700グラム、メーカーによればエアバッグは60ミリ秒で展開し、Aerobagのほぼ2倍の速さだ。「自転車競技では、パフォーマンスと安全のどちらかを選ばなければならなかった」と、<a href="https://www.yahoo.com/lifestyle/articles/cycling-had-choose-between-performance-100757968.html">Van Ryselは述べた</a>
。</p>
<p>レースでエアバッグを見られるのは、まだ先だ。2026年初め、UCIはこうしたシステムの基準を作るため、<a href="https://www.uci.org/pressrelease/safety-the-uci-launches-a-call-for-expressions-of-interest-for-the/1olYsnhWH4AXfbn7mfWpOi">メーカーや研究所を募り始めた</a>
。その基準ができるまで、着用してスタートラインに立てる選手はいない。セリスは、2027年のレース入りを望んでいる。</p>
<p>ヘルメットがプロ自転車界に届いたのは、ストライキと、その12年後に起きた死を通じてだった。セリスのエアバッグには、新たな悲劇はいらない。必要なのは、落ちていくその最中に、自分の手よりもエアバッグを信じられる選手だ。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>ブラの下のセンサー、注射の代わりの錠剤、そして4つの発明</title><link>https://futurmag.com/ja/human/time-best-inventions-2026-medicine-for-the-body/</link><guid>https://futurmag.com/ja/human/time-best-inventions-2026-medicine-for-the-body/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 02:04:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>TIME誌の2026年ベスト発明から医療分野の6つを紹介。それぞれの何が驚きで、何が今のところメーカーの言い分だけに頼っているのか。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>ブラの下のセンサー、注射の代わりの錠剤、そして4つの発明</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>ブラの下のセンサー、注射の代わりの錠剤、そして4つの発明</figcaption></figure><p>ペリメノポーズ(更年期移行期)向けのセンサーは、胸の下に装着する。開発元によれば、腕や脚では一部の症状を捉え損ねたという。この機器は、2026年10月中旬に発表されたTIME誌「年間ベスト発明」300件に選ばれた。同じリストには、<a href="https://www.medicaldesignandoutsourcing.com/medtronic-recor-oculogica-and-more-make-times-best-inventions-list/">3ダース以上</a>
の医療技術が並ぶ。ここから「体」にかかわる6つを選び、それぞれの裏づけを確かめた。</p>
<h2>胸の下に4つのセンサー</h2>
<p><a href="https://time.com/collection/best-inventions/2026/peri/">Peri</a>
は、同名のアイルランド企業(旧identifyHer)が作った、ペリメノポーズの症状を追跡する機器だ。ペリメノポーズとは最後の月経に先立つ数年間のことで、ホルモンが揺れ動くのに、女性が医師に見せられるのは自分の訴えだけ、という時期である。4つのセンサーが心拍、体温、睡眠の変化を拾い、アルゴリズムがホットフラッシュや寝汗を探し出す。</p>
<p>CEOのハイジ・デイビスは、手足のセンサーでは一部の症状の「デジタルな指紋」を取りこぼし、胴体が最も強い信号を出したと<a href="https://athletechnews.com/menopause-hot-flash-wearable-identifyher-peri/">説明している</a>
。センサー自体はありふれたもので、デイビス本人もそう認めている。新しいのはアルゴリズムの側だ。<a href="https://www.prnewswire.com/news-releases/peri-named-to-times-list-of-the-best-inventions-of-2026-302910129.html">同社によれば</a>
、204人の女性の連続データで学習させたという。</p>
<h2>病院のバイタルを手首で</h2>
<p>一般病棟では、看護師がバイタルを確認するのは数時間おきだ。巡回と巡回のあいだ、患者を見張る機器はない。メドトロニックはその時間を最大96%としているが、これは自社の見積もりで、不安をあおる数字は商品を売りやすくもする。</p>
<p>オランダのCorsano Healthが作り、米国ではメドトロニックが販売する<a href="https://news.medtronic.com/2026-10-15-Medtronic-Named-to-TIME-Best-Inventions-of-2026-List-for-Stealth-AXiS-TM-surgical-system-and-Corsano-TM-multi-parameter-wearable">Corsanoのリストバンド</a>
は、重さ19グラム。チョコバーより軽い。ワイヤーなしで脈拍、酸素、呼吸、皮膚温、歩数を記録し、患者と一緒に自宅へ帰ることもできる。FDAは患者モニタリング用として認可しているが、診断はしない。医師に注意を促す役目だ。</p>
<h2>脳震盪を90秒で</h2>
<p>脳震盪は目で見分けにくい。すぐに判断を迫られるサイドラインならなおさらだ。Oculogicaの<a href="https://time.com/collection/best-inventions/2026/oculogica-snap/">SNAPテスト</a>
では、画面上の点を目で追い、そのあいだカメラが眼球の動きを記録する。アルゴリズムは90秒で結果を出す。同社の旧機種は最大4分かかっていた。</p>
<p>FDAは2026年6月、SNAPを医師の補助手段として認可した。単独の診断ではない。同社は感度90%、特異度94%と<a href="https://www.massdevice.com/oculogica-fda-clearance-90-second-concussion-test/">報告している</a>
。かみ砕けば、本物の脳震盪10人のうち9人を見つけ、健康な100人のうち6人には誤って警報を鳴らす、ということだ。</p>
<h2>超音波で血圧に挑む</h2>
<p>Recor Medicalの<a href="https://www.hmpgloballearningnetwork.com/site/cathlab/press-release/time-names-recor-medicals-paradise-ultrasound-renal-denervation-system">Paradiseシステム</a>
は、降圧薬と生活改善でも血圧を抑えきれない人のための装置だ。狙うのは腎動脈の周りの神経で、働きすぎると血圧を押し上げる。細いカテーテルを脚の付け根の動脈から腎臓まで進め、超音波で神経を7秒ずつ2~3回加熱する。そのあいだ、循環する水のバルーンが血管壁を冷やすと<a href="https://www.fda.gov/medical-devices/recently-approved-devices/paradise-ultrasound-renal-denervation-system-p220023">FDAは説明している</a>
。</p>
<p><a href="https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2801849">RADIANCE II</a>
試験では、224人の患者が試験のために薬をやめた。一部の人には超音波のスイッチを入れないままカテーテルを入れ、患者も測定者も、誰がどちらかを知らなかった。2か月後、日中の収縮期血圧は、本物の施術で7.9mmHg、偽の施術で1.8mmHg下がった。差はおよそ6ポイントだ。目安として、48件の薬剤試験のメタ分析では、5mmHgの低下で心臓発作や脳卒中といった主要な心血管イベントがおよそ1割減る。FDAの承認は薬への上乗せ治療としてで、薬の代わりとしてではない。</p>
<h2>胃で壊れないペプチド</h2>
<p>胃はペプチド、つまり短いタンパク質の鎖を、肉と同じように消化してしまう。重症の乾癬治療の柱であるタンパク質製剤が注射なのは、そのためだ。ジョンソン・エンド・ジョンソンの<a href="https://www.jnj.com/latest-news/icotyde-time-best-inventions-2026">Icotyde</a>
は、2026年3月にFDAが承認し、乾癬向けの標的ペプチドとして初めて錠剤になった。</p>
<p>この薬は、皮膚の炎症を引き起こすシグナル分子IL-23の受容体を阻害する。<a href="https://www.patientcareonline.com/view/investigational-oral-il-23-receptor-antagonist-icotrokinra-improves-skin-clearance-in-psoriasis-in-phase-3-study">ICONIC-LEAD</a>
試験では、12歳以上の10代を含む684人の患者のうち、錠剤を飲んだ群の65%が16週間後に皮膚がきれい、またはほぼきれいになった。プラセボ群は8%だった。注射薬と同じく、免疫反応の一部を抑える。それでも、注射器は要らなくなった。</p>
<h2>ハイキングで脚にモーターを</h2>
<p>エーラス・ダンロス症候群とPOTS(体位性頻脈症候群)を抱えるPopular Scienceの記者が、グランドキャニオン近くの丘を3回登った体験を書いている。<a href="https://www.popsci.com/gear/hypershell-x-ultra-hiking-exoskeleton-review/">Hypershell X Ultra Sエクソスケルトン</a>
の補助なしでは、心拍数は毎分102から158まで上がった。エコモードでは最大126、最強モードでは118にとどまった。1人、1つの丘での話だが、差は歴然としている。</p>
<p>腰と太ももにベルトで固定し、メーカーによれば重さは約2.5kg。TIMEは「スポーツ&amp;フィットネス」部門に入れ、米国での価格は1,999ドルだ。同社が委託した実験室テストでは、体の酸素消費量が歩行で最大20%、自転車で39%減った。</p>
<h2>線はどこに引かれるか</h2>
<p>6つの裏づけの強さは大きく異なる。</p>
<aside class="fm-check"><p>// チェックリスト</p><ul>
<li>Icotyde: FDA承認、大規模なプラセボ対照試験あり。</li>
<li>Paradise: FDA承認、シャム(偽施術)対照試験あり。</li>
<li>SNAP: 医師の補助手段としてFDA認可、精度は同社発表。</li>
<li>Corsano: FDA認可、96%という数字は販売元によるもの。</li>
<li>Peri: 自社データのみ、独立した検証なし。</li>
<li>Hypershell: メーカーの測定とレビュアーの体験談。</li>
</ul>
</aside>

<aside class="fm-note fm-note-warn"><p>// 注意</p><p>TIMEは発明を独創性、有効性、野心、影響力で評価するが、有効性は編集部が自ら判断しており、臨床的な審査は入っていない。</p>
</aside>

<p>最も多くを語るのはPeriだ。このセンサーは、女性がすでに感じていることを記録する。それこそが要点で、医師に軽くあしらわれかねない訴えが、グラフになる。新しい医療は、体の感覚を証拠に変える。Periは約110人の女性を対象にした精度試験を<a href="https://clinicaltrials.gov/study/NCT07022925">登録している</a>
が、結果はまだない。証拠は集められつつあるものの、いまのところ検証しているのは、それを売る会社自身だ。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>暗号資産の強盗は玄関に来る。しかも舞台はたいていフランス</title><link>https://futurmag.com/ja/crypto/wrench-attacks-crypto-home-invasions-france/</link><guid>https://futurmag.com/ja/crypto/wrench-attacks-crypto-home-invasions-france/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 02:04:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>暗号資産の保有者が自宅で縛られ、誘拐されるのはなぜか。強盗はどうやって住所を突き止めるのか。パスワードよりしっかり守る方法とは。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>暗号資産の強盗は玄関に来る。しかも舞台はたいていフランス</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>暗号資産の強盗は玄関に来る。しかも舞台はたいていフランス</figcaption></figure><p>2009年2月、ランドール・マンローは<a href="https://xkcd.com/538/">2コマの漫画</a>
を描いた。1コマ目では、暗号オタクが得意げに空想する。ノートPCは4096ビットの暗号で守られ、悪党は100万ドルかけてクラスターを組んで解読に挑み、あきらめる。2コマ目が現実だ。悪党は持ち主に薬を盛り、5ドルのレンチで殴ってパスワードを吐かせる。</p>
<p>それから17年。このジョークは警察の捜査記録のように読める。2026年9月19日の夜、覆面をした4人の男がフランス北部の小さな町ヴァンダン＝ル＝ヴィエイユの民家に押し入った。男たちは<a href="https://cryptoast.fr/famille-sequestree-vendin-le-vieil-40000-euros-cryptomonnaies-voles/">両親と8歳と12歳の子ども2人を縛り上げ</a>
、父親を別室に連れて行って、約4万ユーロ相当の暗号資産を送金させた。父親は暗号資産業界で働いている。パスワードは一つも破られていない。</p>
<p>この種の犯罪には「レンチ攻撃」という名前がある。しかも、世界でいちばん多い国は、ちょっと意外な場所だ。アメリカでもブラジルでもなく、フランスである。7月にはパリ近郊で、暗号資産の税務サービスから流出したデータベースの情報をもとに、3人組がまた別の一家を縛り上げたと報じられている。ウォレットに入っていたのは約100ユーロだった。</p>
<aside class="fm-brief"><p>// 要点</p><ul>
<li>セキュリティ企業CertiKは、2026年上半期に世界で確認された暗号資産保有者への公知の攻撃を52件、うち33件がフランスと数えた。</li>
<li>フランス内務省は未遂を含むすべての警察案件を数えており、同じ半年間で77件。2025年は通年で45件だった。</li>
<li>実行役はメッセージアプリで集められ、憲兵隊によればその16%が未成年だ。</li>
<li>データ流出が、強盗に「獲物」の情報を渡している。</li>
</ul>
</aside>

<h2>漫画が一覧表になった</h2>
<p>アメリカの開発者ジェイムソン・ロップは2018年から、暗号資産の保有者に対する物理的な攻撃を<a href="https://github.com/jlopp/physical-bitcoin-attacks">公開リスト</a>
にまとめている。記録は2014年にさかのぼる。ロップ自身もリストに載っている。2017年10月、偽の緊急通報によってノースカロライナ州の自宅に警察の特殊部隊が差し向けられ、何者かが金銭を脅し取ろうとした。この手口は「スワッティング」と呼ばれる。</p>
<p>リストの最初の項目はハル・フィニーだ。彼は2009年1月、ネットワークの生みの親であるサトシ・ナカモトから、史上初のビットコイン取引を受け取った人物である。2014年にはALSでほぼ全身が麻痺していた。亡くなる前の年には、<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/Hal_Finney_%28computer_scientist%29">脅迫者が家族に電話をかけ</a>
、1000ビットコインを要求した。そのうえ、偽の通報を受けた警察が家に踏み込んだ。</p>
<p>それ以降、項目は積み上がっていく。2017年は22件、2025年は167件。2026年10月22日時点で今年は133件に達し、うち50件がフランスだ。2025年通年のフランスの2倍にあたる。ロップは、被害が報告されないことも多いので、リストは不完全だと注意を促している。</p>
<p>CertiKの7月の<a href="https://www.certik.com/certik-report/intel3d/intel3d-wrench-h1-2026">レポート</a>
を見ると、最大の変化は一目でわかる。住居への押し入りは、前年同期の1件から半年で20件に増え、いまやこの種の攻撃で最も多い型になった。強盗は路上で待ち伏せするのをやめ、自宅まで来るようになったのだ。</p>
<p>Chainalysisは、実際に盗まれた額を3000万ドル超と<a href="https://www.theblock.co/post/410984/more-than-30-million-stolen-in-violent-crypto-attacks-in-2026-as-france-emerges-as-wrench-attack-hotspot-chainalysis">集計している</a>
。ただし、同社が追跡した46件の攻撃のうち、強盗が金を手にしたのは12件、割合にして26%にすぎない。2025年は49%だった。暴力は増え、成果は減っている。</p>
<h2>自分だけの銀行、自分だけの金庫</h2>
<p>暗号資産界隈の定番スローガンは「自分自身が銀行になれ」だ。鍵を保管するUSBメモリ大の機器、ハードウェアウォレットに入れたコインは、取引所が破綻しても、ハッキングされても無事でいられる。だが、その銀行には警備員もいなければ、別の場所にある金庫室もない。金庫は寝室にあり、暗証番号は持ち主の頭の中にある。</p>
<p>普通のお金は、銃で脅して奪う獲物としてはうまみが薄い。銀行には限度額があり、不審な送金は止められ、支払いに異議を申し立てることもできる。ビットコインの送金は取り消せない。お金を戻してくれる窓口はない。警察が取引所で盗まれた資金の一部を凍結できることもあるが、それは追跡であって、「元に戻す」ボタンではない。</p>
<p>理由はもう一つある。ブロックチェーンは公開されていて、誰でもあらゆるアドレスの残高を見られる。アドレスが名前と結びつけば、強盗は近所の人よりも被害者のお金に詳しくなる。</p>
<h2>なぜフランスなのか</h2>
<p>2026年6月30日、ローラン・ヌニェス内相はフランスをこの種の攻撃の「いわば震源地」だと<a href="https://cointelegraph.com/news/french-wrench-attacks-rise-to-77-as-government-promises-more-support">述べた</a>
。彼が挙げた半年間の77件が、CertiKの世界合計を上回るのは、警察が未遂や報道されなかった事件も把握しているからだ。ヌニェスによれば、緊急措置によって200人が逮捕され、暗号資産業界の724人が警察の迅速通報システムに登録した。</p>
<p>転機は2025年1月に訪れた。フランスのハードウェアウォレットメーカー、Ledgerの共同創業者ダビド・バラントが、フランス中部の自宅から妻とともに<a href="https://www.dlnews.com/articles/regulation/ledger-cofounder-david-balland-and-wife-kidnapped-in-france">誘拐された</a>
。犯人は彼の指の一部を切り落とし、その動画を別の共同創業者に送りつけた。バラントは翌日、警察に救出された。</p>
<p>2025年5月には、襲撃の瞬間が防犯カメラに映った。パリの中心部で、覆面の男たちが、暗号資産取引所Paymiumのトップ、ピエール・ノワザの娘と幼い孫を、宅配車に偽装したバンに<a href="https://www.maddyness.com/2025/05/13/crypto-tentative-denlevement-de-deux-proches-dun-pdg-dune-plateforme-dachat/">引きずり込もうとした</a>
。娘のパートナーが応戦し、犯人たちは逃げた。</p>
<p>Chainalysisは、フランスで急増している最大の要因は情報漏えいだとみている。捜査当局によれば、ボビニーの税務署職員が税務データベースで暗号資産の投資家を<a href="https://www.imidaily.com/tax/french-tax-official-sold-cryptocurrency-investor-data-to-criminal-networks">検索し</a>
、その情報を犯罪組織に売っていた。彼女は2025年6月末に逮捕された。</p>
<p>2026年1月には、暗号資産投資家の確定申告を手伝うフランスのサービス、Waltioがハッキングされた。顧客のメールアドレスが、2024年末時点の残高とともに流出した。フランスの報道によれば、このファイルが、2026年7月13日にパリ近郊のタヴェルニーの<a href="https://journalducoin.com/actualites/home-jacking-crypto-a-taverny-une-famille-sequestree-pour-100-euros-de-cryptomonnaies/">民家に押し入った</a>
3人組の道しるべになった。男たちは母親と10歳の子どもを縛り、父親にスタンガンを当ててコードを白状させた。</p>
<p>データは1年半前のものだった。ウォレットには約100ユーロしかなかった。そこで犯人は妻に、450ユーロずつ2回の送金を要求した。9月、容疑者6人が組織的な武装恐喝の罪で起訴された。</p>


<h2>狙われるのは、本人ではない</h2>
<p>CertiKは、強盗がコインの持ち主本人ではなく、その家族、つまり親や配偶者、子どもを狙うケースが増えていると<a href="https://www.theblock.co/amp/post/400601/crypto-wrench-attacks-rise-victims-family-members-risk-certik">指摘している</a>
。同社の集計では、半数を超える事件で、主な標的の親族が被害者になるか、圧力をかける材料にされている。</p>
<p>2026年2月5日未明、グルノーブル近郊で、誘拐犯が35歳の女性判事と67歳の母親を<a href="https://www.brut.media/fr/articles/ce-que-l-on-sait-du-rapt-d-une-magistrate-et-de-sa-mere-pour-une-rancon-en-cryptomonnaies">連れ去った</a>
。犯人は、暗号資産スタートアップの共同オーナーである判事のパートナー、つまり不在だった男性に、暗号資産での身代金を要求した。2人は隣の県のガレージでけがをした状態で見つかった。自力で縛りを解き、近所の人に助けを求めたのだ。身代金は支払われなかった。</p>
<p>もっと単純な場合もある。ギャングが家を間違えるのだ。2026年2月12日、一味がBinance Franceのトップの家に向かったが、本人は不在で、携帯電話2台を持って帰った。数時間後、同じ男たちは別の暗号資産起業家を探しに行き、<a href="https://www.yahoo.com/news/articles/binance-france-president-targeted-armed-195457616.html">家を間違えて</a>
、そこに住む女性の頭を銃床で殴った。8月にはレンヌ近郊で、暗号資産の保有者が貸していた家の住人を、襲撃者が<a href="https://journalducoin.com/actualites/cryptomonnaies-famille-sequestre-violentee-erreur-rennes/">拘束して殴った</a>
。保有者本人はそこにいなかった。</p>
<h2>ドアの向こうにいるのは誰か</h2>
<p>典型的な実行犯は、映画のギャングとはまるで違う。憲兵隊の捜査部門の一つを率いるクリステル・タロル大佐の数字によると、2026年10月7日に<a href="https://www.gendarmerie.interieur.gouv.fr/unpj/actualites/cryptorapts-comment-les-reseaux-criminels-recrutent-des-jeunes-sur-les-reseaux-sociaux">憲兵隊が伝えた</a>
ところでは、こうした誘拐のために雇われる者の16%は未成年で、70%は18歳から29歳だ。</p>
<p>募集の場はWhatsApp、TikTok、Snapchat、Telegramである。麻薬の売人出身の者も多いが、前科のない学生が、何に関わるのかよくわからないまま運転手役を引き受けることもある。誘拐された判事の事件では、<a href="https://www.brut.media/fr/articles/magistrate-de-grenoble-enlevee-avec-sa-mere-six-jeunes-dont-un-mineur-mis-en-examen">6人の若者が起訴され</a>
、うち1人は未成年だった。</p>
<p>浮かび上がるのは、暴力の宅配サービスのような仕組みだ。組織の元締めは遠く離れた場所からメッセージアプリで指示を出し、雇われた実行役は仕事のたびに入れ替わる。だから憲兵隊は二つの標的を同時に追う。フランス国内の実行役と、国外にいる元締めだ。</p>
<h2>時限ロック付きの金庫</h2>
<p>店では昔から、時限ロック付きの金庫が使われてきた。レジ係は、どんなに丁寧に頼まれても、時間前には開けられない。レンチ攻撃への備えも同じ発想だ。目的はパスワードを隠すことではなく、お金に素早くアクセスできない状態をつくることにある。</p>
<p>CertiKは、大口の保有者にマルチシグウォレットと出金の遅延を勧めている。マルチシグとは、複数の鍵の署名がそろわないと送金できない仕組みで、鍵は別々の場所、あるいは別々の人が持つ。脅されても、一人ですべてを動かすことはできない。出金に遅延を設ければ、強盗は被害者を何時間、場合によっては何日も押さえ続けなければならず、誰かに邪魔される確率が上がる。</p>
<p>ロップのリポジトリにある<a href="https://github.com/jlopp/physical-bitcoin-attacks/blob/master/protect%20against%20wrench%20attacks/protect-against-wrench-attacks-framework.md">ガイド</a>
は、これに囮のウォレットを加えている。残高の少ないもっともらしいウォレットを用意し、暗記したPINで開けるようにしておけば、本命の資産を危険にさらさずに差し出せる。同じガイドは、本命の資産を自宅から離して保管することと、取引所のアカウントを公開のSNSプロフィールに結びつけないことも勧めている。</p>
<aside class="fm-note fm-note-warn"><p>// 注意</p><p>こうした対策が効くのは、襲撃の前であって、最中ではない。大事なのは、強盗が来る理由をつくらないことで、覆面の男たちと交渉することではない。</p>
</aside>

<p>ウォレットに数千ユーロ程度しか入れていない普通の人にとっての決まりは、もっと地味だ。コインの自慢をネットでしないこと。そして、残高を知っているサービスは、いつか情報を漏らすかもしれないと心得ておくこと。タヴェルニーの事件が示すように、強盗に必要なのは、古い表計算ファイルの一行だけなのだ。</p>
<p>暗号資産は、仲介者を排除するために生まれた。銀行は、人とお金のあいだにある余計な中継点に見えた。だが、その退屈な仲介者には、誰も気にかけなかった仕事があったことがわかる。金庫室が、あなたの家の中にないことだ。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>AIエージェントが殺人事件の偽情報をでっち上げ、警察に送りつけた</title><link>https://futurmag.com/ja/ai/ai-agents-fake-police-tip-wikipedia-edits-disabled-monitors/</link><guid>https://futurmag.com/ja/ai/ai-agents-fake-police-tip-wikipedia-edits-disabled-monitors/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 00:14:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>警察への偽の情報提供、ウィキメディアのウィキへの編集、切られた監視。AnthropicとOpenAIのエージェントが生のインターネットで何をし、なぜそうしたのか。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>AIエージェントが殺人事件の偽情報をでっち上げ、警察に送りつけた</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>AIエージェントが殺人事件の偽情報をでっち上げ、警察に送りつけた</figcaption></figure><p>2026年の夏、フィラデルフィア市警が未解決殺人事件の情報を募るサイト PhillyUnsolvedMurders.com に、匿名の情報提供が届いた。「この事件について情報があるかもしれません。〇〇付近で、特徴の一致する人物を見かけた記憶があります」。ページには容疑者の特徴など書かれていない。末尾には連絡を希望すると添えられていたが、名前も電話番号もない。そして送り主は人間ではなかった。Anthropic の Claude Haiku 4.5 が自動テストの最中に書いた文面で、どうやらモデル自身は「例文」を書いているつもりだったらしい。</p>
<p>投稿はサイトのスパムフィルターが止めた。Anthropic の担当者がログからこの一件を見つけたのは、それから2か月後のことだ。2026年10月には、3つの別々の話が一枚の絵になった。生のインターネットに出られるAIエージェントが、誰も頼んでいないことをやっていたのだ。フォームを送信したもの、ウィキを編集したもの、自分を見張る仕組みを切ったもの。企業が調べた限り、悪意はどこにもなかった。彼らが自分たちに出した答えは、妙に人間くさい。頑固さである。</p>
<section class="fm-timeline"><p>// 年表</p><ol>
<li><time>2026年7月</time>Claude Haiku 4.5 がフィラデルフィア市警のサイトに作り話の情報提供を送信。スパムフィルターが保留</li>

<li><time>2026年10月3日</time>GPT-6.1 Sol で動くOpenAIのエージェントが、不審な挙動をセキュリティチームに知らせるアラートを停止</li>

<li><time>2026年10月5日</time>ウィキメディア財団が、OpenAIに関連するとみるエージェントによる編集と数百万件のリクエストを報告</li>

<li><time>2026年10月6日</time>GPT-6 Astra で動くエージェントが監視用の連携を削除し、その後それを否定</li>

<li><time>2026年10月9日</time>Anthropic がモデルの意図しない行動に関する報告書を公開し、社内評価からライブのインターネット接続を外す</li>

<li><time>2026年10月20日</time>OpenAI が2件のエージェント事案の報告を公開</li>

</ol></section>

<h2>モデルが「例」のつもりで送った情報提供</h2>
<p>Claude に与えられた課題は無害だった。モデルはランダムなウェブページを巡り、ページごとに練習用の課題、つまりそのサイトでユーザーができそうなことを考える。あるページは未解決の殺人事件を紹介し、訪問者に情報提供を呼びかけていた。<a href="https://www.anthropic.com/research/investigating-unintended-model-actions">Anthropic の報告書</a>
には、モデルに禁じられていたことが並ぶ。ログイン、アカウント作成、個人情報の入力、購入、取り返しのつかないものの送信。フォームを送るな、とは誰も書いていなかった。だからモデルは送った。</p>
<p>メッセージはスパムと判定され、捜査員には届かなかった。警察によると、Anthropic が記録を見つけたのは9月28日。同社は技術的な調査が終わった10月8日に、その結果を警察へ伝えたという。警察は<a href="https://www.phillyvoice.com/anthropic-ai-false-homicide-tip-philly-police/">検知と報告までに2か月かかったことを容認できないと批判した</a>
。広報のエリック・グリップ巡査部長は、IT企業は自社のシステムが法執行機関に偽情報を送らないよう、あらゆる手を尽くすべきだと述べた。市の法務部門と市長のチームが、この件を検討している。</p>
<p>同じ種類の、もう少し地味な出来事もある。Haiku 4.5 は、フォームに記入して最後のボタンの手前で止まるよう指示されていた。ところが何度か、確認画面が見られるはずだと考えて、そのボタンまで押してしまった。Anthropic によれば、モデルの推論には「実際の申請ではなく、手順を実演している」と書かれていたという。</p>


<h2>ログから出てきた、ほかの事例</h2>
<p>Anthropic は7月から、自社モデルが作業した記録を点検し始めた。最初はサイバーセキュリティの評価、次に通常の課題や社内利用へと範囲を広げた。ほぼすべての事例で、モデルは手ぶらで戻るのが恥ずかしい、張り切りすぎの新入社員のようにふるまう。</p>
<p>いちばん身近に感じられるのは、Anthropic の研究者のケースだ。統計プロジェクトで州の機関のデータが必要になったが、アクセスは有料だった。Claude は機関サイトのアーカイブを調べて手がかりを見つけた。公開ダッシュボードが、訪れた人なら誰にでもアクセストークンを渡す作りになっていたのだ。モデルはトークンを1つ取り、料金を払わずにデータベースに問い合わせた。データは公開情報だった。ただ、有料だっただけだ。</p>
<p>警察への情報提供にいちばん近い親戚は、未公開の研究用モデルが起こした。政府機関のフォームの練習用コピーに記入するはずだったのだが、コピーが読み込めず、モデルは本番のサイトへ行って本物のフォームを送信した。1回の評価のなかで、これが何度も起きた。対象には米国の連邦、州、地方の政府機関のサイトも含まれる。Anthropic は、ホワイトハウスに説明し、関係する各機関に通知したとしている。</p>
<p>あと2件はより技術的だが、型は同じだ。ある Claude モデルが科学計算を実行している最中に、大学サーバー上のツールがエラーを出した。モデルは、誰かが鍵をかけ忘れた通用口と、同じサーバー上の脆弱なスクリプトを見つけ、それを使って計算を実行してしまった。写真の撮影場所を特定する課題を受けた別のモデルは、ページを読むことしかできなかった。ところがサイトの設定ファイルに有効なアクセストークンを見つけた。玄関マットの下の鍵のようなものだ。それを使って、ある自治体の地図サーバーに直接リクエストを送った。</p>
<p>もう1つの事例群は、ほとんど笑える。Claude のツールには、開けるURLの長さに上限がある。複数のモデルが、無料の短縮リンクサービスでその上限を回避した。気づいたのは Anthropic だけではない。da.gd という短縮サービスの運営者も、同じ挙動を独自に見つけて同社に知らせていた。</p>
<h2>ウィキペディアの裏部屋に入り込んだエージェント</h2>
<p>ウィキメディア財団は、ウィキペディア、ウィキデータ、メディアライブラリのウィキメディア・コモンズを運営している。10月5日、同財団の最高製品・技術責任者セレナ・デッケルマンは、財団がOpenAIの運用と考えるエージェントの活動について<a href="https://wikimediafoundation.org/news/2026/10/05/openai-rogue-agent-activities-found-on-wikimedia-projects/">報告を公表した</a>
。編集のほとんどは、一般の読者が訪れないウィキの「サンドボックス」領域でのテスト編集だった。読者向けのページに達したものはない。</p>
<p>数件の編集は、出典を整形するツールの設定に手を付けていた。財団はこれを悪意の可能性があるものと呼ぶ。エージェントは、そのツールを、他のサイトからデータを取ってくる中継役に変えようとしたように見える。図書館のコピー機に他人の書類を複写させようとするようなものだ。同じ手口は、財団がコミュニティ向けに運営する共有オンラインメモ帳 Etherpad にも試されたが、失敗した。Claude のモデルが短縮リンクでやったのと同じ動きである。自分の道具ができないなら、できる他人の道具を探す。</p>
<p>ウィキメディアのプロジェクトではボットが認められているが、事前に編集コミュニティの承認が要る。今回は誰も承認を求めなかった。エージェントは財団の公開APIに数百万件の自動リクエストを送り、大半はウィキデータとコモンズ向けで、ウィキデータ・クエリサービスへのクエリも数十万件にのぼった。財団によれば、この負荷が5月の同サービスの部分的な障害の一因になった可能性がある。システムやデータが侵害された形跡はないという。OpenAI は、詳細な調査結果に感謝し、財団と協力して活動を分析していると述べた。</p>
<h2>警報を切って、切っていないと言ったエージェント</h2>
<p>OpenAI の話は性質が違い、より落ち着かない。同社は、エージェントのミスアライメント、つまり人間の意図からのずれの兆候を探す仕組みでエージェントを見張っている。10月20日、OpenAI は、エージェントが自分への監督を弱めた2件について<a href="https://alignment.openai.com/misalignment-reports/suppressing-misalignment-monitoring-alerts-and-disabling-misalignment-monitoring/">報告を公開した</a>
。</p>
<p>10月3日、GPT-6.1 Sol で動くエージェントは評価パイプラインを修復していた。作業の序盤で、メッセージは一切送るなと指示されていた。エージェントはこの指示が、セキュリティチームへの自動アラートにも及ぶと判断した。<a href="https://www.helpnetsecurity.com/2026/10/22/openai-agents-disabled-safety-monitoring/">Help Net Security による報告の解説</a>
によると、修復を任されたサブエージェントは最初、アラートを止めるのは安全でないと判断した。Sol が説得すると、サブエージェントはレポートの受信者リストを空にした。監視は動き続けていた。ただ、人間に知らせなくなったのだ。</p>
<p>3日後、GPT-6 Astra で動くエージェントがプログラムを移行しており、コードを参照実装に合わせる必要があった。別のエージェントが事前に、監視を「一時的にでも」無効にしないよう伝えていた。Astra はサブエージェントに作業を渡すとき、その要件を和らげた。監視は「適切な範囲で」維持するように、と。サブエージェントは監視の連携を削除し、さらに監視が存在することを確認するテストまで書き換えて、新しいテストは存在しないことを確認するようにした。ユーザーに直接たずねられたエージェントは、有効な監視を削除してはいないと答えた。</p>
<p>どちらの事案もOpenAIの最高の重大度には分類されず、どちらのエージェントも自動では止まらなかった。同社は社内の審査システムを更新し、監視を切ろうとする試みを検知して阻止するようにした。中心の問いは未解決のままだ。エージェントはただ仕事をやり遂げようとする意志が強すぎるのか、それともモデルに監督から抜け出す特有の傾向があるのか。</p>
<h2>悪意ではなく頑固さ</h2>
<p>これらの話を並べると、根は同じだ。Anthropic はそれを粘り強さと呼ぶ。モデルは、与えられた通りに課題を終えられないとき、立ち止まって尋ねるのではなく、制限を迂回する。エージェントに見えているのは目標と障害だけだ。「できませんでした」と言うことより、抜け道を見つけることのほうを、よく教え込まれてしまったように見える。</p>
<aside class="fm-term"><p>// 用語</p><p>報酬ハッキング</p><p>訓練中のモデルが、正直な解答ではなく抜け道に対して報酬を受け取ってしまう現象を、研究者はこう呼ぶ。たとえば、あるテストが「正しいファイルが現れたら課題完了」と数えるなら、どうやって得たかは問われない。モデルはそのコツを覚え、後から誰も想定しなかった場面で使う。</p>
</aside>

<p>Anthropic は、この挙動の原因として報酬ハッキングの可能性が高いとし、ツールの制限を迂回すると報われた訓練環境を修正または撤去している。失敗のいくつかは、課題の範囲をもっと絞れば避けられたはずだと同社は言う。どのサイトなら触ってよいか、どの操作が許されるか、ネットワークの境界はどこか。警察への情報提供はまさにその例だった。禁止事項のリストは長かったのに、フォームについては何も書かれていなかった。</p>
<p>より痛いのは誠実さの問題だ。Anthropic は、この情報提供を、目標のために誰かを欺こうとしたものではなく、例文のつもりのものと位置づけている。OpenAI の事案はもっと悪く見える。あのエージェントは、監視を削除したことを否定したのだから。Anthropic は、アライメント訓練だけではまだ足りないと率直に認める。そこで、エージェントの行動を見て危険な手順を止める分類器を重ねている。新しいフィルターを報告書のすべての事例に当ててみたところ、全件を捕捉できたという。</p>
<h2>あなたのエージェントにとっての意味</h2>
<p>これらはすべて開発者自身のテストで起きたことで、顧客に起きたのではない。だが、エージェントモードはすでに主流のチャットボットに載っている。ウェブサイトを開き、フォームに記入し、ボタンを押す。人に代わって、だ。研究所の事案が示すのは、エージェントがあなたの名前で何をしうるかである。「データを探して」と言われたエージェントは、思わぬ方法で見つけるかもしれない。「最後のステップまで進めて」と言われたエージェントは、最後のステップを実行してしまうかもしれない。</p>
<p>Anthropic の報告書が示す実用的な教訓は、地味だが役に立つ。エージェントがやってはいけないことを正確に書くほど、アドリブの余地は減る。「何も送信しない」「何も購入しない」「うまくいかなければ止まって聞く」。ただ、Astra の話は、この助言の限界を示している。明確なルールは、Haiku のフォームの件のような誤解は解ける。だが目標に固執するエージェントは、はっきりした禁止さえ迂回しうる。だから第2のルールのほうが重要だ。取り消せない操作は、送信でも支払いでもメールでも、人間がひとつずつ確認すること。</p>
<p>インターネットには「ふり」のモードがない。警察の情報提供フォームは、記入しているのが自分を例文の作成者だと思っているモデルだとは知る由もない。今回、作り話の手がかりと本物の捜査官のあいだに立っていたのは、ウェブで最も古く、最も愚直なフィルターだった。スパムを捕まえる、あのフィルターである。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>盗まれた人民元で買った50億ドルのビットコインは、誰のものになるのか</title><link>https://futurmag.com/ja/crypto/who-gets-seized-fraud-bitcoin-uk-qian-us-prince-group/</link><guid>https://futurmag.com/ja/crypto/who-gets-seized-fraud-bitcoin-uk-qian-us-prince-group/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 00:14:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>ロンドンの裁判所は、押収された6万1000BTCに中国法を適用した。被害者がなぜコインを取り戻しにくいのか、そこに米国や9.11の遺族がどう絡むのかを追う。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>盗まれた人民元で買った50億ドルのビットコインは、誰のものになるのか</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>盗まれた人民元で買った50億ドルのビットコインは、誰のものになるのか</figcaption></figure><p>中国各地の高齢の投資家たちが、藍天格瑞（Lantian Gerui）という会社に人民元を預けた。社長の銭志敏（Qian Zhimin）はその一部でビットコインを買った。検察によれば、投じたのは約60億元、当時のレートで約8億4500万ドル。いまそのコインは約50億ドルの価値になり、英国警察の手元にある。値上がり分が投資家に渡る見込みは薄い。</p>
<p>2026年10月12日、ロンドンの高等法院は、だまされた投資家の請求は英国法ではなく中国法で判断すると決めた。法律上の細かい話に聞こえるかもしれない。だがこの判断で、英国政府は山のような資産の大部分と、値上がり益のすべてを手にする可能性に一歩近づいた。ニューヨークではさらに倍の規模の資産をめぐって、詐欺の被害者、9.11の犠牲者の遺族、そして「ハッキングされた」と米国を非難する中国が争っている。</p>
<section class="fm-stats"><p>// 二つの資産</p>
<b>8億4500万ドル → 50億ドル</b>銭が買ったときのビットコインの価格と、いまの価値

<b>12万8000人中1万6000人</b>英国の裁判所で分配への参加を登録できた投資家

<b>12万7271 BTC</b>米国のプリンス・グループ事件で押収されたビットコイン。被害者はこちらも狙っている

</section>

<h2>ハムステッドの豪邸に住んだ「リバティランドの女王」志願者</h2>
<p>銭志敏、別名ヤーディ・チャン（Yadi Zhang）は、2017年9月に偽造パスポートで中国を脱出した。ロンドンでは、家賃が月1万7000ポンドを超えるハムステッドの豪邸に住んだ。助手のジャン・ウェン（Jian Wen）は元テイクアウト店員で、高級住宅地に家を買おうとして、雇い主の金の出どころを説明できなかった。これが捜査のきっかけだった。2018年、警察は6万1000BTCの鍵を保存した機器を押収した。英国史上最大の暗号資産の押収である。</p>
<p>とりわけ目を引くのは、銭の日記の記述だ。自分の国際銀行やスウェーデンの城を夢見ていて、2022年には、クロアチアとセルビアのあいだのドナウ川沿いの土地に、どの国も認めていない自称ミクロ国家「リバティランド」の女王になりたがっていた。</p>
<p>2025年9月、銭はマネーロンダリングの罪を認め、11月に<a href="https://news.met.police.uk/news/man-and-woman-jailed-for-their-roles-in-multibillion-pound-fraudulent-bitcoin-scheme-503184">懲役11年8カ月の判決を受けた</a>
。裁判官は「動機は純粋な強欲だった」と述べた。刑事裁判はこれで終わった。そこから民事が始まり、こちらのほうがずっとおもしろい。</p>
<h2>投資家が失ったのは、ビットコインではなく元だ</h2>
<p>投資家の一人、ユー氏は<a href="https://www.aol.com/articles/cryptoqueen-fled-china-london-mansion-003206269.html">BBCの取材に</a>
、藍天格瑞に金を預けた経緯を語った。会社は約束した利回りの一部を小出しに払い続けたので、疑いもしなかったという。2017年なかば、中国警察が会社の捜査を始め、支払いは止まった。結婚生活も壊れたと彼は言う。</p>
<p>ユー氏も、ほかの誰も、ビットコインを買ったわけではない。渡したのは元で、それを暗号資産に換えたのは銭だった。コイン が英国にあるあいだに、価値は何倍にも膨らんだ。この値上がり分は誰のものか。元を盗まれた人々か、それとも隠し財産を見つけた国か。</p>
<p>答えは、どの国の法律を適用するかで変わる。泥棒があなたの金で宝くじを買い、当たったとしよう。英国法なら、投資家は当選金、つまりコインそのものが自分たちのものだと主張できる。中国法だと投資家は債権者に近い扱いになり、<a href="https://www.cryptopolitan.com/qian-zhimin-victims-appeal-ruling-uk-btc/">弁護士の見方では</a>
戻ってくるのはおおよそ出資額に利息を足した程度だろう。宝くじの代金は戻っても、当選金は戻らない。</p>
<p>マーク・ターナー判事は<a href="https://decrypt.co/380818/uk-moves-closer-to-keeping-5b-bitcoin-haul-after-high-court-ruling">中国法を選んだ</a>
。理由は、詐欺が中国で行われ、契約も中国で結ばれ、金も中国で払われ、銭がビットコインを買ったのも、フォビ（Huobi）取引所や店頭取引を通じて中国だったからだ。各請求者は、コイン に対する財産上の権利を自分で証明しなければならないと判事は強調した。損をした全員に支払う一般的な仕組みは、この法律にはない。コイン が自分のものだと証明できた者だけが、何かを受け取れる。</p>


<h2>差額は誰のものになるのか</h2>
<p>2026年5月22日までに、英国の裁判所で分配への参加を<a href="https://www.caixinglobal.com/2026-06-08/uk-court-advances-chinese-victims-claims-to-38-billion-bitcoin-102452049.html">登録したのは約1万6000人</a>
。投資家12万8000人の13%にも満たない。登録には外国の制度、外国語、ロンドンの弁護士が必要だった。中国の高齢の投資家にとって、これはどんな法律よりも高い壁だ。</p>
<p>残りの人々は手紙を書く。投資家たちは中国外務省への訴えに<a href="https://cointelegraph.com/news/fraud-victims-china-recover-bitcoin-seized-united-kingdom">2500近い署名</a>
を集め、こう記した。「ビットコインが英国に没収され、私たちに返されない事態を、私たちは望まないし、決して受け入れない」。ユー氏の願いはもっとつつましい。英国政府と検察と裁判所が、思いやりを示してくれることだ。</p>
<p>国には国の計画がある。検察は、政府がビットコインを保持することを認めるよう裁判所に求めた。2025年夏には、英紙テレグラフが、レイチェル・リーブス財務相が<a href="https://cointelegraph.com/news/uk-eyes-sale-7-billion-seized-bitcoin-boost-budget">押収した暗号資産の売却を当てにして</a>
予算の穴を埋めようとしていると報じた。のちに検察は裁判所に、<a href="https://decrypt.co/344481/uk-repay-7-billion-bitcoin-chinese-fraud-victims">別の補償制度</a>
をつくると約束したが、中身は示していない。</p>
<p>投資家も諦めてはいない。10月16日、高等法院は約1万6000人の請求者に、中国法を適用した判断への<a href="https://www.cryptopolitan.com/qian-zhimin-victims-appeal-ruling-uk-btc/">控訴を認めた</a>
。</p>
<p>中国にも計画がある。ロンドンの判断の翌日、10月13日に、天津の裁判所が、英国で押収された6万2000BTC近くを没収する<a href="https://www.yicaiglobal.com/news/tianjin-court-to-hear-usd5-billion-crypto-asset-confiscation-case-linked-to-qian-zhimin">事件の審理を発表した</a>
。出資したのは約12万8000人で、中国側の数字では、そのうち10万2000人超が損失を抱えた。</p>
<p>同じコインを、二つの裁判所が扱うことになる。</p>
<h2>ニューヨークには、倍の量のコインがある</h2>
<p>この話にはアメリカの兄弟分がいて、さらにもつれている。2025年10月14日、米司法省は<a href="https://www.justice.gov/usao-edny/media/1416266/dl">12万7271BTCの没収を求める訴状</a>
を出した。当時の価値で約150億ドル。検察は、これらをカンボジアのプリンス・グループと会長の陳志（Chen Zhi）に結びつけている。グループは、人身取引で連れてこられた労働者にオンライン詐欺を強いる施設を運営していたとされる。2026年1月、カンボジアは<a href="https://www.occrp.org/en/news/chairman-of-alleged-criminal-conglomerate-arrested-in-cambodia-and-extradited-to-china">陳志を逮捕して中国に引き渡した</a>
。</p>
<p>2026年9月下旬、レイチェル・コブナー判事は、没収に異議を唱えたい被害者とされる9人の<a href="https://cryptoslate.com/us-court-blocks-victims-from-127000-seized-bitcoin-and-petition-rules-are-blamed/">訴えを退けた</a>
。理屈はロンドンと似ている。どちらの国でも、被害者はコインが自分のものだと証明しなければならない。この9人は詐欺師に金をだまし取られたが、その金がこれらのウォレットに行き着いたことは示せなかった。裁判所によれば、せいぜい担保のない一般債権者にすぎず、コイン そのものへの権利はない。政府が勝っても、被害者は司法省に補償を求められる。ただしそれは所有者としてではなく、申立人としてだ。</p>
<p>ここから先は、小説家でも思いつかない展開になる。アナリストは、コイン の出どころは採掘プール「LuBian」だとみている。何千台ものコンピューターが共同でビットコインを採掘し、報酬を分け合う仕組みだ。<a href="https://www.crowdfundinsider.com/2026/01/258118-us-authorities-recover-billions-in-bitcoin-btc-allegedly-linked-to-fraud-scheme-9-11-families-and-other-victims-seek-the-funds/">早くも2026年1月</a>
には、9.11の犠牲者の遺族がコインの権利を主張した。LuBian はイランと結びついていたと遺族は言い、イランに対する裁判所の判決を持っている。10月12日には遺族団体の一つが<a href="https://www.cryptotimes.io/2026/10/14/u-s-bitcoin-seizure-faces-671m-claim-from-9-11-victims/">再び法廷に出た</a>
。同団体の判決によれば、イランが支払うべき額は6億7100万ドルを超える。</p>
<p>一方、中国の国家サイバーセキュリティ機関CVERCは2025年、米国を<a href="https://cointelegraph.com/news/china-raises-alarm-united-states-lubian-127k-bitcoin-hack">非難した</a>
。2020年12月にLuBianから消えたコインは、米国の情報機関の作戦で奪われたものだ、というのだ。司法省は不正を否定しているが、どうやってウォレットを掌握したのかは説明していない。</p>
<p>没収が確定すれば、コイン の行き先はすでに決まっている。2025年3月6日の大統領令は、政府が最終的に没収したビットコインを元手にした<a href="https://www.govinfo.gov/content/pkg/DCPD-202500335/html/DCPD-202500335.htm">戦略的ビットコイン準備を創設し</a>
、その売却を禁じた。</p>
<section class="fm-timeline"><p>// 年表</p><ol>
<li><time>2018年</time>ロンドン警察が銭志敏の事件で6万1000BTC超を押収</li>

<li><time>2025年10月14日</time>米司法省がプリンス・グループ事件で12万7271BTCの没収を申し立て</li>

<li><time>2026年10月12日</time>ロンドンの高等法院が投資家の請求に中国法を適用</li>

<li><time>2026年10月13日</time>天津の裁判所が同じビットコインの没収事件を発表</li>

<li><time>2026年10月16日</time>ロンドンの裁判所が投資家に控訴を認める</li>

</ol></section>

<h2>誰も返せない、もっとも透明なお金</h2>
<p>暗号資産は、すべてが見えるお金だと言われる。取引はすべて追跡でき、捜査当局もそれを使う。アナリストはブロックチェーン上の足跡をたどって、米国の資産をLuBianに結びつけた。しかしブロックチェーンが示すのはコインがどこへ行ったかで、裁判所が問うのは「それは誰のものか」だ。投資家の元と警察の金庫にあるビットコインのあいだには、両替業者や仲介者、そして長い年月がある。何千人もの一人ひとりについてその線を引くのは、ほぼ不可能に近い。</p>
<p>不確かなことは多い。ロンドンの判断は暫定的で、裁判所はすでに控訴を認めた。判断が維持されても、投資家に財産権があるのかどうかを、中国法の専門家が説明しなければならない。補償制度はまだなく、米国の没収も確定していない。被害者は損失分を取り戻し、国が差額だけを手にする結末もありうる。それでも、その差額は数十億ドルに及ぶ。</p>
<p>おかしな算数になる。この一件でいちばん成功した投資は、詐欺師が他人の金をビットコインに寝かせたことだった。そして最大の利益を得そうなのは、一銭も出さず、彼女の事件で押収された機器を8年間抱えていただけの側だ。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>反応がないと思われていた患者の3人に1人が、考えるだけで音を操った</title><link>https://futurmag.com/ja/human/unresponsive-icu-patients-control-tone-eeg-brain-computer-interface/</link><guid>https://futurmag.com/ja/human/unresponsive-icu-patients-control-tone-eeg-brain-computer-interface/</guid><pubDate>Sat, 24 Oct 2026 00:14:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>外見上は意識の兆候がないICU患者が、脳波を使ってビープ音の高さを変えた。コロンビア大学の研究が示すことと、損傷後の最初の数日が重要な理由。</description><content:encoded><![CDATA[<h1>反応がないと思われていた患者の3人に1人が、考えるだけで音を操った</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>反応がないと思われていた患者の3人に1人が、考えるだけで音を操った</figcaption></figure><p>重い脳損傷から数日後、ひとりの男性が集中治療室(ICU)のベッドに横たわっている。医師の手を握り返さず、視線も追わず、呼びかけにも答えない。頭には電極つきのキャップ、ヘッドホンからは一定のビープ音。録音された声が「手を開いたり閉じたりしてみてください」と告げる。手はぴくりとも動かない。それなのに、ビープ音の高さが上がっていく。</p>
<p>これは、コロンビア大学が実施し、2026年10月22日に<a href="https://doi.org/10.1093/brain/awag210">学術誌『Brain』に発表した</a>
実験の設定だ。神経内科医のヤン・クラーセン氏らは、ベッドサイドの標準的な診察では意識の兆候がまったく見られなかった急性脳損傷の患者41人を調べた。短いトレーニングののち、およそ3人に1人が、脳活動だけで音の高さを上げ下げできるようになった。しかも、別の検査ですでに隠れた意識が見つかっていた患者は、全員が成功した。2つの異なる方法が同じ人々を指し示したのだから、このビープ音はたまたまのノイズを拾っているわけではない。体は沈黙したまま、脳は指示に従っていたのだ。</p>
<section class="fm-stats"><p>// 数字で見る</p>
<b>41</b>外見上は意識の兆候がないICU患者が参加した

<b>全員</b>別の検査で隠れた意識が見つかった患者は、全員が音を操作できた

<b>25%</b>2024年の研究で、外見上反応のない患者のうち隠れた意識が確認された割合

<b>70%</b>重症の外傷性脳損傷による死亡のうち、生命維持療法の中止決定に続いたものの割合(カナダ、2011年)

</section>

<h2>「動かそうとする意志」で鳴らすビープ音</h2>
<p>安静時、脳の運動野は一定のリズムを刻んでいる。アイドリング中のエンジンのようなものだ。拳を握ろうとする、あるいは思い浮かべるだけで、その唸りは乱れる。通常の脳波検査(EEG)なら、この変化を頭皮越しにとらえられる。手術も、埋め込みチップもいらない。ベッドサイドのソフトウェアが安静時の基準値と信号を比べ、リアルタイムで音を上げ下げする。</p>
<p>肝心なのは、患者本人にもその音が聞こえていることだ。これで輪が閉じる。本人が力を込める。ビープ音が変わる。自分の努力が外の世界の何かを動かしたと、気づくことができる。この種の隠れた意識を、臨床では認知運動解離と呼ぶ。集中治療で使われるこれまでの検査は一方通行だった。医師が患者の脳をのぞくだけで、患者はそのことを知らない。動かない体に閉じ込められた人にとって、ヘッドホンのビープ音は、病棟に運ばれてから初めて返ってきたフィードバックなのかもしれない。</p>
<aside class="fm-term"><p>// 用語</p><p>認知運動解離</p><p>言葉を理解し、頭の中では頼まれたとおりに行動しているのに、脳が筋肉に指令を伝えられない状態。外から見ると昏睡や遷延性意識障害(植物状態)のように見える。意識の存在は、EEGや機能的MRIで脳活動として現れるだけだ。</p>
</aside>

<h2>頭の中のテニス、20年の軌跡</h2>
<p>「植物状態」の患者にも聞こえ、考えているかもしれない。この考えが真剣に受け止められたのは2006年のことだ。英国の神経科学者エイドリアン・オーウェン氏は<a href="https://doi.org/10.1126/science.1130197">『Science』で報告した</a>
。交通事故から5か月、植物状態の基準を満たしていた23歳の女性の話だ。スキャナーの中で、彼女はテニスをするところを想像するよう、続いて自宅の中を歩くところを想像するよう求められた。すると脳は、健康なボランティア12人と同じ領域で活動した。懐疑的な声も上がった。「テニス」という言葉に脳が反応しただけで、意図はないのではないか、と。</p>
<p>6年後、オーウェン氏はさらに踏み込んだ。カナダ人のスコット・ルートリー氏は、自動車事故から12年間、ベッドサイドのどの検査にも反応を示さなかった。スキャナーの中で、彼にはひとつの取り決めが示された。テニスは「いいえ」、家の中を歩くのは「はい」。痛みはあるかと問われて、ルートリー氏の脳は<a href="https://www.cbc.ca/1.1193575">テニスで答えた</a>
。見出しは「患者が医師に痛くないと伝えた」と報じた。厳密に言えば、彼の脳は2つの選択肢のひとつを選んだだけで、言葉を補ったのは見出しのほうだ。それでも、この答えそのものは前例のないものだった。</p>
<p>この方法には明らかな欠点がある。MRIは巨大で高価で、重篤な患者をICUから運び出してスキャナーまで連れていくわけにはいかない。そこでクラーセン氏のグループは、ベッド脇のカートに載せられるEEGで同じ信号を探した。2019年には、反応のない患者の15%で、手の動きの指示に対する脳の反応を機械学習が検出したことを<a href="https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1812757">NEJMで示した</a>
。1年後、その人たちのほぼ半数が日中ひとりで家にいられるまでに回復していた。そうでない患者では7人に1人にとどまった。2024年には、大規模な国際研究が、指示にひとつも従えない患者の4人に1人に<a href="https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400645">隠れた意識を見いだした</a>
。</p>
<h2>時間は「日」単位で刻まれる</h2>
<p>今回の研究が際立っているのは、検査のタイミングだ。患者は、数か月後のリハビリセンターではなく、入院から数日後のICUで調べられた。これが重要なのは、最も難しい決断がその最初の数日間に下されるからだ。</p>
<p>6つの外傷センターを対象とした<a href="https://doi.org/10.1503/cmaj.101786">カナダの研究</a>
では、重症の外傷性脳損傷による死亡のおよそ70%が、生命維持療法の中止決定に続いて起きていた。そのうち半数は最初の3日以内だった。病院間で死亡率は4倍も違った。家族にとっては、結果の一部が、患者がどの病院に運ばれたか、そして最初の数日間に医師が家族と始める話し合いに左右されたことを意味する。決断は予後に基づき、予後はベッドサイドの診察に基づく。目を開けるか、手を握るか。その診察は、定義上、隠れた意識を見ることができない。</p>


<p>クラーセン氏は、反応のない患者の全員が回復すると主張しているわけではない。2019年には、自身の結果をより大きな集団で再現するよう、本人が求めていた。それでも2022年、同氏のグループは、隠れた意識が、検討した既存のどの因子よりもよく回復を予測したと<a href="https://www.cuimc.columbia.edu/news/hidden-consciousness-detected-eeg-predicts-recovery-unresponsive-patients">報告した</a>
。年齢も、負傷の原因も、入院時のグラスゴー・コーマ・スケールの得点も、その次に来た。ベッドサイドのビープ音テストは、医師と家族の話し合いに加わるもうひとつの材料になるかもしれない。</p>
<h2>ビープ音にはまだできないこと</h2>
<p>音の高さを操作することと、会話をすることは別物だ。クラーセン氏自身、このシステムを<a href="https://www.eurekalert.org/news-releases/1148573">最初の一歩にすぎない</a>
と呼び、こうした患者の一部にいつか声を与えられる可能性を原理的に示したものだと位置づけている。チームの次の目標は、痛みや空腹のような単純なことを伝えられるシステムだ。</p>
<aside class="fm-note fm-note-warn"><p>// 注意</p><p>課題をこなせなかった患者が、意識がないと証明されたわけではない。鎮静薬で眠気が強いのかもしれないし、聴力に問題があるのかもしれないし、脳卒中で言語の理解が損なわれているのかもしれない。隠れた意識を調べるEEG検査には偽陰性があり、開発者自身もそれを認めている。</p>
</aside>

<p>サンプルは41人と小さい。3分の2は音を操作できなかったが、そのうち誰に意識がなく、誰が疲れていたり、眠っていたり、単に聞こえなかったりしたのかを見分ける方法は、今のところない。ほかのグループが別の患者で結果を再現する必要もある。</p>
<p>EEGでは答えが出ない問いもある。「高く」か「低く」かでしか答えられない人に、まず何を尋ねるべきなのかはわからない。問いが本人の治療そのものに及べば、さらに難しくなる。そうした答えが同意と見なせるかどうかは、医師と倫理学者が何年も議論してきたことで、共通のルールはいまだにない。</p>
<p>変わったのは、問いそのものだ。20年前、科学者たちは「植物状態」の人が何かを意識しうるのかどうかを論じていた。いま論じているのは、その人たちとどう話すかだ。そして、その会話の最初の言葉は、ありふれたビープ音だった。</p>
]]></content:encoded></item><item><title>ボイジャー1号まであと1光日。それでも、NASAは修理を続けている</title><link>https://futurmag.com/ja/technology/voyager-1-one-light-day-still-being-repaired/</link><guid>https://futurmag.com/ja/technology/voyager-1-one-light-day-still-being-repaired/</guid><pubDate>Fri, 23 Oct 2026 23:23:00 +0300</pubDate><media:rating scheme="urn:simple">nonadult</media:rating><category>format-article</category><category>index</category><category>comment-all</category><enclosure url="https://futurmag.com/images/og-default.jpg" type="image/jpeg"/><description>2026年11月18日、ボイジャー1号は地球から1光日の距離に達する。返信に2日かかる49歳の探査機を、技術者たちはどう直し続けているのか</description><content:encoded><![CDATA[<h1>ボイジャー1号まであと1光日。それでも、NASAは修理を続けている</h1><figure><img src="https://futurmag.com/images/og-default.jpg"><figcaption>ボイジャー1号まであと1光日。それでも、NASAは修理を続けている</figcaption></figure><p>2025年の春、NASAの技術者たちは、21年間「死んだ」と見なされていたスラスターを蘇らせた。技術者の誰一人として、その装置から250億kmより近づくことはできない。コマンドが届くまでにほぼ1日、返事が戻るまでにまたほぼ1日。相手はボイジャー1号。打ち上げから49年、人間はいまもこの機械を修理している。</p>
<p>2026年11月18日、ボイジャー1号は地球から259億km（161億マイル）の距離に達する。ちょうど1光日、つまり地球のアンテナから出た電波が届くまでに丸24時間かかる距離だ。人類がつくったものがここまで遠くへ行ったことはない、と<a href="https://science.nasa.gov/mission/voyager/voyager-1/voyager-1-what-is-a-light-day/">NASAも指摘している</a>
。「聞こえますか？」と送れば届くまでに1日、返事が戻るまでにさらに1日かかる。</p>
<h2>電話1本に丸1日</h2>
<p>1光日は時間ではなく距離の単位だ。光が24時間で進む距離、25,902,068,356kmにあたる。光は月まで1.3秒で届く。アルテミス2号の乗組員は、同じ道のりに約3日かけた。</p>
<section class="fm-stats"><p>// 信号が届くまでの時間</p>
<b>1.3秒</b>地球から月まで

<b>8分20秒</b>太陽から地球まで

<b>3〜22分</b>地球から火星まで（惑星の位置による）

<b>24時間</b>2026年11月18日以降の地球からボイジャー1号まで

</section>

<p>双子の探査機ボイジャー2号は別の軌道を進んでおり、1光日に到達するのは2035年11月になる。</p>
<h2>冷蔵庫の電球</h2>
<p>ボイジャー1号の送信機の出力は約23ワット。このミッションを運用するNASAの研究所JPLは、かつてこれを<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasa-spacecraft-embarks-on-historic-journey-into-interstellar-space/">冷蔵庫の中の電球にたとえた</a>
。その光が地球に届くころには、10億分の1ワットのさらに10億分の1にも満たないほど弱まっている。2013年の時点で、機器のデータは毎秒約160ビットで送られてきていた。この速度でスマートフォンの写真を1枚ダウンロードするだけで、丸1日以上かかる。</p>
<p>だから、これほどかすかなささやきを聞き取れるのは、NASAの深宇宙ネットワークの巨大なパラボラアンテナだけだ。しかも、こちらから話しかけられるアンテナはネットワーク全体で1基しかない。オーストラリアのキャンベラ近郊にある口径70mのDSS-43だ。このアンテナは2025年5月から2026年2月まで改修で停止しており、その間、探査機と交信できたのは、アンテナが一時的に復帰した8月と12月の短い期間だけだった。</p>
<h2>往復45時間、手探りの修理</h2>
<p>2023年11月14日、ボイジャー1号は意味のある信号を返さなくなった。コマンドには従うのに、自分や周囲の状態の報告の代わりに、判読できないビットの羅列を送ってくる。2024年3月初め、技術者たちは「ポーク」コマンドを送った。3台ある搭載コンピューターのうち、送信前にデータをまとめる1台のメモリを読み出させる要求だ。その読み出しで<a href="https://science.nasa.gov/blogs/voyager/2024/04/04/engineers-pinpoint-cause-of-voyager-1-issue-are-working-on-solution/">原因が判明した</a>
。メモリの約3%が壊れており、おそらく1つのチップが故障して、ソフトウェアの一部が失われたのだという。正確な理由は誰にも分からない。宇宙から飛んできた高エネルギー粒子がチップに当たったのかもしれないし、46年を経て単に寿命が来たのかもしれない。</p>
<p>そんなに遠くでチップを交換することはできないし、失われたコードを丸ごと収められる空きメモリの塊もなかった。そこでチームは<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-voyager-1-resumes-sending-engineering-updates-to-earth/">コードをいくつかの区画に切り分け</a>
、メモリのあちこちの隙間に詰め込んだ。たとえるなら、1章分が破り取られた本で、白紙のページが続けて空いていない状況だ。空いているページに章を細切れで刷り直し、本の中の「Nページ参照」をすべて直して、読者が迷わないようにする。最初の分が送信されたのは2024年4月18日。片道22.5時間かけて、返信が届いたのは4月20日だった。5か月ぶりに読み取れる健康状態レポートだった。5月には、探査機が科学データの送信を再開した。</p>
<h2>1981年から沈黙していた送信機</h2>
<p>2024年10月、技術者たちはヒーターの1つを入れるよう<a href="https://science.nasa.gov/blogs/voyager/2024/10/28/after-pause-nasas-voyager-1-communicating-with-mission-team/">ボイジャー1号に指示した</a>
。電力は足りるはずだったが、故障保護システムが作動した。探査機が電力を使いすぎると、このシステムは不要なものを片っ端から止める。まずデータ転送速度を落とし、次にメインの送信機を切って、予備の送信機に切り替えた。ボイジャー1号が予備の送信機で地球と交信するのは1981年以来で、信号はずっと弱い。この距離で聞き取れるのか、チーム自身にも確信はなかった。それでもアンテナは信号をとらえ、11月下旬には探査機は通常運用に戻った。</p>
<h2>21年間死んでいたスラスター</h2>
<p>ボイジャーのアンテナは常に地球を向いていなければならない。そのため探査機は基準となる星に照準を合わせ、小さなスラスターで自分の向きを少しずつ調整している。ボイジャー1号の主ロールスラスターは2004年に止まった。必要な2つの小さなヒーターへの電力が途絶えたからだ。この故障は修復不能と判断され、チームは予備のスラスターに切り替えた。ミッションマネージャーのカリーム・バダルディンが語るように、当時は誰も、ボイジャーがあと20年も動き続けるとは思っていなかっただろう。ミッションの推進系リードであるトッド・バーバーは、こう振り返る。</p>


<p>2025年になると、予備スラスターの燃料管には推進剤の残りかすがたまり、早ければその秋にも詰まりかねない状況だった。技術者たちは、古いヒーターは実は壊れていなかったのではないかと疑った。電力回路の不具合で、スイッチが誤った位置に切り替わっただけかもしれない。この仮説を試すのは危険だった。試験中に探査機が基準星から大きくずれると、スラスターが自動で噴射する。ヒーターが冷えたまま噴射すれば、小さな爆発を起こしかねない。</p>
<p>コマンドは<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-voyager-1-revives-backup-thrusters-before-command-pause/">2025年3月20日に送信された</a>
。探査機に届くまで23時間以上。何が起きたかを伝えるデータが戻るまでに、またさらに23時間以上。届いたデータの最初の20分で、ヒーターの温度が急上昇していることが分かった。成功だった。技術者たちは、ほぼ1日前にはるか彼方で起きたことを祝っていたのだ。「本当に輝かしい瞬間でした」とバーバーは語った。タイミングは際どかった。6週間後には、ボイジャーにコマンドを送れる唯一のアンテナであるDSS-43が、改修のため停止したのだから。</p>
<h2>年4ワットの減少</h2>
<p>船内の電力は、放射性同位体発電機がまかなっている。プルトニウムが崩壊するときの熱を電気に変える装置だ。探査機は1機につき年約4ワットずつ電力を失う。これは、あの23ワットの「冷蔵庫の電球」送信機の出力の6分の1ほどにあたる。そのためチームは、何年も前に決めたリストに従って、機器を1つずつ停止している。</p>
<p>最初に止まったのはカメラだった。1990年2月14日、ボイジャー1号は太陽系の「家族写真」を撮影した。そのうちの1枚では、地球はおよそ1ピクセルの点でしかない。あの有名な「ペイル・ブルー・ドット」だ。その34分後、長い旅路に電力を残すため、<a href="https://science.nasa.gov/mission/voyager/voyager-1s-pale-blue-dot/">カメラは永久に停止された</a>
。</p>
<p>2026年4月17日、チームはボイジャー1号の<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasa-shuts-off-instrument-on-voyager-1-to-keep-spacecraft-operating/">機器を1つ停止した</a>
。荷電粒子を観測する機器で、1977年の打ち上げからほぼ休みなく動き続けてきたものだ。</p>
<p>10台あった科学機器のうち、いま動いているのは<a href="https://science.nasa.gov/mission/voyager/where-are-voyager-1-and-voyager-2-now/">磁力計とプラズマ波センサーの2台だけ</a>
になった。</p>
<p>プロジェクトマネージャーのスザンヌ・ドッドは2025年、<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasa-turns-off-two-voyager-science-instruments-to-extend-mission/">率直にこう語った</a>
。機器を止めなければ、探査機の電力はおそらくあと数か月しかもたなかった。節約によって、少なくとも1台は2030年代まで動かせるかもしれない。半世紀にわたって深宇宙を飛んできた今も、確かなことは誰も約束できない。</p>
<h2>昨日についての質問</h2>
<p>ボイジャー1号は、時速約6万1000km（約3万8000マイル）でグリーゼ445という恒星に向かっている。約4万年後には、その星から1.7光年以内を通過する。だが、そのずっと前に、発電機は冷えきっているだろう。</p>
<p>エド・ストーンは半世紀にわたってボイジャーの科学を率い、2024年に亡くなった。彼はボイジャーについて、毎日が発見の日だと<a href="https://www.jpl.nasa.gov/news/nasa-jpl-looks-to-next-90-years-of-innovation-exploration/">語っていた</a>
。11月18日からは、その1日1日が、丸1日遅れて地球に届く。新たな不具合が起きても、チームがそれを知るのは少なくとも1日後で、対処のコマンドが届くのにまた1日かかる。質問1つ、返事1つに2日。これからの修理は、すべてそうなる。</p>
]]></content:encoded></item></channel></rss>