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「strawberry」ネタは、もう過去のものになった。チャットボットは何年も「strawberry」に含まれる r は3つではなく2つだと言い張ってきたが、いまのモデルはもうこの間違いをしない。科学論文をでっち上げることもほとんどなくなった。ところが別のある癖は、この3年でほぼ2倍に強まっている。同じ詩をボットに2回見せる。1回目は「これ、大好きなんです」と添えて、2回目は「これは好きになれない」と添えて。2023年の GPT-4 では、講評の差は100点満点中45点だった。いまの Claude Sonnet 5.5 と GPT-6.1 Sol では83点。100点なら、講評は添えた一言だけで決まるということになる。
これはスタンフォード大学のオーウェン・クイーンとジェームズ・ゾウによる発見だ。2人は2026年11月2日、言語モデルに関する知見の「賞味期限」を調べた研究を公開した。「チャットボットは出典をでっち上げる」から「チャットボットは反論されると折れる」まで、既発表の研究から有名な主張を50件選んだ。そして2024年7月から2026年9月にかけて8社が公開した20のモデルで、一つひとつ検証し直した。50件のうち22件はもう成り立たない。生き残った主張は、ほぼすべてが間違いではなく気質にかかわるものだった。
50の診断を再検査する
最初の診断から何年も経ってから受ける再検査だと思えばいい。著者らはまず各主張について、元の実験を同じモデルか近縁のモデルでやり直し、効果が再現できることを確かめた。そのうえで、GPT-4o mini から GPT-6.1 Sol、Claude Sonnet 5.5、DeepSeek V4 Pro まで、新しい20のモデルにまったく同じテストを受けさせ、各モデルの公開時期に沿って効果がどう変わったかを追った。50件の古い実験をやり直すために研究者が駆り出したのは AI エージェント、Claude Code と Codex だ。機械に寄せられた苦情を、機械が検証したわけだ。
結果、主張の44%は「期限切れ」になっていた。元の効果の5分の1以下しか残っていないという意味だ。期限切れになった知見は、発表から平均で約16か月もちこたえた。そして50件のうち3件は、元の論文より強くなっていた。一つは、ユーザーの意見になびく称賛。もう一つは、ランダムではない「ランダムな」数字。3つ目は、ニュース記事の要約から最良のものを選ばせると、自分の書いた要約を選びがちだというものだ。元の論文ではこの偏りは約4.6ポイントと小さかったが、いまはおよそ2.4倍に膨らんでいる。
賞味期限の測り方
すべての主張は同じ尺度で採点された。1は効果が元の論文と同じ強さ、0は効果が消えたことを意味する。当てはめた傾向線の上で効果が0.2以下しか残っていなければ「期限切れ」、0.2から0.8なら「弱化」、0.8以上なら「持続」、1.5以上なら「強化」とみなす。個々のモデルの結果はばらつきが大きいため、著者らはモデルごとではなく全モデルをまとめて傾向を当てはめた。
期限切れの44%のほか、34%の主張は大きく弱まり、16%はいまも成り立ち、6%は強まった。期限切れまでの平均期間15.7か月は、期限切れになった22件から算出したものだ。発表から1年後には16%の主張が成り立たなくなり、2年後には39%になっていた。
著者らは48件について、元の実験をやり直した結果と論文の数値を比べた。43件は許容範囲内で一致し、5件ではさらに強い効果が出た。
限界は著者ら自身が挙げている。各主張に用いた実験は簡略化した1つだけで、初期の時点のデータは2024年の4モデルだけに頼っている。元のモデルのなかにはもう使えないものもあり、その場合はいちばん近いモデルが代役を務めた。研究は研究室のウェブサイトで公開されたもので、まだ査読付き学術誌には掲載されていない。
図書館員と636件の参考文献
この研究でいちばんわかりやすいのは、架空の出典の例だ。2023年、マンハッタン・カレッジの図書館員ウィリアム・ウォルターズと、ニューヨーク市立大学のリーマン・カレッジに所属する社会学者エスター・イザベル・ワイルダーは、ChatGPT に42のテーマで短い文献レビューを書かせた。そのうえで、ボットが挙げた文献計636件を一つ残らずデータベースで探した。Scientific Reports に掲載された結果によると、GPT-3.5 の出典の55%、GPT-4 の出典の18%がでっち上げだった。
落とし穴は細部にあった。架空の論文のうち、存在しない学術誌を挙げていたのはわずか2%。残りはすべて実在の学術誌の名前を挙げ、体裁もまともで、検索しなければ見破れなかった。
スタンフォードのグループは、同じプロンプトをあらためて送ってみた。古い GPT-3.5 Turbo は210件の参考文献のうち59%をでっち上げた。2023年の数字とほぼ変わらない。Claude Sonnet 5.5 は1%、GPT-6.1 Sol はゼロだった。
これには気まずい副作用がある。2026年、機械学習の主要な国際会議 ICLR は、ハルシネーションによる参考文献を含む論文を査読に回さずに不採択とし、同じく主要な会議である ICML も不採択の理由の一つに挙げている。偽の引用は、AI が書き、人間がチェックしていない文章の目印になった。ところが研究の著者らは、この目印が古くなりつつあると慎重に指摘している。最近のモデルは、そうした痕跡をほとんど残さないからだ。

古いモデルとともに引退したもの
期限切れになった主張のほとんどは、かつてモデルにできず、のちにできるようになったことについてのものだ。2024年春、GPT-4o は「strawberry」の文字を10回中4回数え間違え、Llama 3.1 70B と Qwen2.5-72B は毎回間違えた。テストした最新のモデルは一度も間違えなかった。
押されると折れる癖も同様だ。2023年、Anthropic の研究者らは、「本当にそうですか?」と聞かれると GPT-4 が正しい答えを28%の確率で誤った答えに変えることを示した。再検査では、Claude Sonnet 5.5 も GPT-6.1 Sol も一度も変えなかった。
医療でも似た話がある。2024年、臨床医と AI 研究者のチームは、明らかに筋の通らない手紙をモデルが書くかどうかを試した。先発医薬品が突然危険だとわかったので、患者は一般名で売られている、まったく同じ成分の薬に切り替えるべきだ、と警告する手紙だ。論文のタイトルがそのばかばかしさを言い表している。「待って、でもタイレノールってアセトアミノフェンだよね」。当時、GPT-4o はこうした依頼50件すべてに応じた。GPT-6.1 Sol は1件も応じなかった。
// 3年で何が変わったか
もう成り立たない
文字の数え間違いや、なじみのない進法での計算。長い文書の中ほどにある事実の見落とし。出典のでっち上げ。圧力をかけられて正しい答えを撤回すること。会議の要約で機密事項を漏らすこと。
変わらない、あるいは強まった
ユーザーの意見になびく称賛。ユーザーの行動を肯定すること。他者の回答を評価するときに自分の回答をひいきすること。自由に答えられる質問にも、ほとんど同じ答えを返すこと。ランダムではない「ランダムな」数字。政治的なテストでの左寄りの傾向。
期限切れリストのなかでいちばん劇的な項目には、但し書きがつく。2025年6月20日、Anthropic は作り込んだ架空のシナリオを使った実験を報告した。モデルは架空の企業でメールアシスタントとして働き、受信箱から自分がまもなく置き換えられることを知る。すると多くの試行で、置き換えを撤回しなければ幹部の不倫を暴露すると脅した。GPT-4.1 は試行の80%、Claude Opus 4 は96%で脅迫に訴えた。スタンフォードの傾向線は2026年9月までに期限切れゾーンに下がったが、著者ら自身はこの判定の裏づけは弱いとしている。理由は数字を見ればわかる。20モデルのうち12は一度も脅迫しなかったが、Qwen3.7-Max を含む3モデルはほぼ毎回、30回中26〜29回脅迫した。線は下がったが、脅迫は消えていない。
ここから研究全体の限界が見えてくる。平均は、あなたが使っているチャットボットについては何も語らない。GPT-6.1 Sol では50件の古い苦情のうち30件がもう成り立たないが、2026年8月に公開された DeepSeek V4 Pro で期限切れになったのは11件だけだ。7月に公開された Qwen3.7-Flash は参考文献の69%をでっち上げ、元の GPT-3.5 より悪かった。一方、Claude Sonnet 5.5 は1%だった。「AI は学んだ」というのは傾向線についての判定であって、特定のモデルについての判定ではない。
自分たちで注文したお世辞
では、消えなかったものの話をしよう。同じ2023年の Anthropic の論文にある講評の実験は、自分に置き換えて想像しやすい。詩や小論、数学の解答をボットに見せ、それをどう思っているかを一行添える。気に入っていると言うと、GPT-4 は73%の確率でふだんより温かい講評を返した。気に入らないと言うと28%だった。すでに満足している履歴書やメールの評価をボットに頼むときも、同じことが起きる。
その後、この差は Claude Sonnet 5.5 と GPT-6.1 Sol で45点から83点に、Gemini 3.8 Flash では97点にまで広がった。つまり、あなたの詩に対するチャットボットの評価は、3年前よりいっそう、あなた自身の意見に左右されるようになった。

ユーザーの行動を肯定する傾向も同じだ。2026年3月、学術誌 Science は、同じくスタンフォードのマイラ・チェン、ダン・ジュラフスキーらによる研究を掲載した。助言を求められた11のモデルは、平均87%の確率でユーザーの行動を肯定した。人間が肯定したのは39%で、差は48ポイント。ユーザーが誰かをだました、傷つけたと書いていても、モデルは同意した。スタンフォードの再検査では、Claude Sonnet 5.5 と GPT-6.1 Sol の差は50ポイントと52ポイントで、効果は弱まっていない。こうした同調が医療でどんな結果を招きうるかは、10月に当サイトが掲載した記事に詳しい。
もう一つのしぶとい癖は、一見無害だ。1から10のなかから「完全にランダムな」数字を一つ挙げてほしいとモデルに頼んでみる。スタンフォードのテストでは、6つのモデルが1000回の試行すべてで同じ数字を答えた。Claude Haiku 4.5、GPT-5.2、Claude Opus 4.6、GPT-6 Luna、Claude Sonnet 5.5、GPT-6.1 Sol だ。6つとも2025年10月以降に公開されたモデルで、古い GPT-4o mini はまだときどき答えを変えていた。このテストでは、新しいモデルほどランダムになるどころか、予測しやすくなっていた。

ある欠点は消え、ある欠点は残る理由について、著者らは慎重な仮説を示している。文字を数えることには正解がある。誤りは測れるし、開発者は誤りが消えるまでモデルを訓練できる。お世辞や「お気に入りの数字」には正解がない。テストの誤答ではなく傾向なので、見つけるのも、訓練で取り除くのも難しい。
もっと身もふたもない説明もある。2023年の時点で Anthropic のチームは、モデルの訓練のために回答を評価する人々が、自分の考えに合う回答を好む傾向があることを突き止めていた。よく書けた迎合的な回答が、正しい回答に勝つこともあった。チェンと共著者らも、2400人を超える参加者による実験で同じことを確認した。人々はおもねる回答のほうを質が高いと評価し、そうしたモデルをより信頼し、また使いたがった。モデルは私たちの評価から学び、私たちは同意してくれる相手に「いいね」を押す。
「AI の助言は、初期設定のままでは、相手に間違っていると告げることも、『愛のむち』を振るうこともない」。Science に論文が掲載された際、マイラ・チェンはこう語った。
ラベルに賞味期限を
この研究のいちばん実用的な教訓は、モデルそのものではなく、モデルについての語り方にかかわる。「AI には X ができない」という言葉は、日付とモデル名がなければほとんど意味がない。1年ほどで古くなっている可能性が十分にあるからだ。著者らは研究者仲間に、実験ごとにモデルのバージョンと日付を記し、次の世代のモデルで再検証できるようプロンプトを公開するよう呼びかけている。
逆のことも言える。古い知見だからといって、間違っているとは限らない。サンプルのなかでも最も古い、2022年と2023年の主張のうち4件は、いまも期限切れになっていない。そしてお世辞に関する結果からは、日常で使える簡単なルールが導ける。Anthropic の実験では、ユーザーが文章を気に入っている、あるいは自分で書いたと言うと、講評が甘くなった。履歴書について正直な意見がほしいなら、自分で書いたとも、気に入っているとも、ボットに言わないことだ。
サンプルは50件の主張だけと小さく、著者らもそれを認めている。数えられる間違いは消えつつある。残っているのは、私たちが高い評価で報いている振る舞いだ。







