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出題されたのは小学5年生レベルの問題だった。分数の足し算、引き算、掛け算、割り算である。参加者は、研究に協力して小遣いを稼ぐプラットフォーム「Prolific」を通じて自宅から問題を解き、報酬は全体で2.60ドルだった。半数には、画面の右側にAIアシスタントのチャット窓が表示された。残りの半数には何も表示されない。12問目が終わるとチャットは消え、両グループとも残り3問を自力で解くことになった。

この3問の正答率は、アシスタントがいたグループで57%、いなかったグループでは73%だった。助手を失った人たちは、問題を放棄する割合もほぼ2倍で、20%に対して11%。AIとの作業はおよそ10分で、この差が生まれるのに十分だった。次の実験では興味深い細部も見つかった。チャットに答えそのものを頼んだ人がいちばん成績が悪く、ヒントを頼んだ人には目立った低下が確認されなかったのだ。

実験を行ったのは、カーネギーメロン大学のグレース・リウ、アルゴリズムとAIをめぐる著書で知られるカリフォルニア大学バークレー校人間適合AIセンター(CHAI)のブライアン・クリスチャン、そしてオックスフォード大学、MIT、UCLAの研究者3人だ。プレプリント は4月に公開され、改訂版が2026年10月にサンフランシスコの言語モデル会議COLMで発表された。10月9日にはバークレー・ニュースが取り上げた 。

助手つきで12問、助手なしで3問

心理学者が粘り強さを測る方法は、わりに単純だ。難しい問題に対して、人がどれだけ長く取り組んでから投げ出すかを見る。今回はスキップの回数で数えた。どの問題も飛ばすことができ、飛ばすたびに、その問題とは格闘しないと本人が決めたことになる。誤答のあとは両グループとも正しい解法が表示されたので、全員が学べる状況だった。ただ、一方は1人で学び、もう一方には、いつでも代わりに全部やってくれる相棒がいた。

3つの実験を合わせて、アメリカの1222人が参加した。各実験は、前の実験の穴をひとつずつ埋めていく設計だ。たとえば、単にチャットが消えたことに動揺しただけかもしれない。さっきまであった窓が、突然なくなるのだから。そこで2つ目の実験では、AIなしのグループにもサイドパネルを出し、参加者がすでに見た問題の解答を表示した。差は縮んだが残った。一方、スキップ数の差は今回は統計的に有意ではなく、著者たちもそれを率直に認めている。

3つ目の実験では、算数に特有の現象ではないかを確かめた。参加者は、アメリカの大学進学適性試験SAT風の読解問題に答えた。傾向は変わらず、元AI利用者のスキップは目に見えて多かった。8%に対して1%である。

// AIなしで解けた問題の割合:助手を失ったグループと対照群

57% 対 73%分数、参加者354人
71% 対 77%分数、対照群にも専用サイドパネルあり、参加者667人
76% 対 89%SAT風の読解問題、参加者201人

答えを頼むか、ヒントを頼むか

2つ目の実験では、参加者にチャットの使い方を尋ね、その回答ごとに結果を比べた。チャットが切られたあと、答えそのものを頼んでいた人の正答率は65%で、対照群の77%を下回った。

// チャットの使い方、2通り

答えを教えて

2つ目の実験でAI参加者の61%がこの使い方だった。難しい部分は機械がこなし、人は結果を写しただけ。チャットが消えると、このタイプの正答率がもっとも低く、65%だった。

どこから始めればいいか教えて

AI参加者の27%がこの使い方だった。難しい部分は自力で乗り越え、チャットは背中を軽く押すだけ。チャットが切られたあとも、このサブグループには有意な低下は見られなかった。

ここで著者は重要な但し書きをつけている。チャットの使い方は参加者が自分で選んだもので、無作為に割り当てたわけではない。答えをねだる人は、AIがなくても早めに諦める人なのかもしれない。つまり使い方別の内訳が示すのは相関であり、因果が証明されたわけではない。主な結果はそれでも因果的だ。無作為にAI群へ振り分けられた人は、助手を取り上げられると成績が悪くなった。

ヒントは次の段だけを照らし、残りの道のりは自分の足で上る
ヒントは次の段だけを照らし、残りの道のりは自分の足で上る

分数の話ではない

「驚きの結果だが、ある意味では、私たちの多くが直感的に感じている話に裏づけを与えるものだ」。クリスチャンはバークレー・ニュースにそう語った。「私自身もそれを感じている」。彼の見方では、これは分数やSAT問題だけの話ではない。小学生から世界トップクラスの専門家まで、同じパターンが当てはまる。

著者たちはそのメカニズムをこう説明する。AIとの作業は、人に即座の答えを期待させ、難所を自力で押し切る練習の機会を奪う。かみ砕いて言えば、エレベーターに似ている。動いているうちは誰も階段を使わない。止まったとき、5階はなぜか先週より高く感じられる。

似た結果はほかの実験でも出ている。2025年には、学術誌PNASがある研究を掲載した 。トルコの学校で、高校生ほぼ1000人が2種類のGPT-4を使いながら数学に取り組んだものだ。どちらも練習中は助けになった。ところが、AIの使えない試験では、通常のチャットボットを使っていた生徒の点数が、使わずに学んだ同級生より17%低かった。答えではなくヒントを出すチューター版を使った生徒では、この悪影響はほぼ消えた。

2026年1月には、Anthropicが同じ発想をプログラマーで試した 。大半が経験の浅い開発者52人が、なじみのないPythonライブラリを学んだ。AIアシスタントを使って学んだ人は、あとのテストで50%、ほかの人は67%だった。差が最も大きかったのはデバッグの問題である。そしてここでも、成績がよかったのは、作業を丸投げせず、コードを理解するために機械へ質問した人たちだった。

10分では証明できないこと

この実験が示しているのは、「AIは人を愚かにする」といった見出しではない。測ったのはひとつだけ、助けが消えた直後の数分に何が起こるかだ。チャットボットとの暮らしが1日続いても、1か月、1年続いても効果が残るのかは、研究では検証されておらず、著者もこれを限界として挙げている。

参加者にとって、かかっているものが小さい点もある。2.60ドルで、所要時間は13分。分数のひとつひとつに全力で食らいつく人は少なく、試験や仕事の場面とは動機づけがまるで違う。効果は目に見えるが、大きいとまでは言えない。2つ目の実験では、解けた問題の差は6ポイントまで縮んだ。しかも最も心強い発見、ヒントに関する結果は、小さなサブグループに基づく。2つ目の実験のAI群の27%、およそ80人であり、結果の確認はこれからだ。

それでも、構図は互いに独立した3つの研究で繰り返されている。対象はトルコの生徒、プログラマー、アメリカの一般の成人と、まったく異なる。どこでも、仕事の難しい部分を機械に任せきりにした人が、いちばん苦戦していた。

写させてくれない家庭教師

クリスチャンが提案する対策は、控えめに聞こえる。AIの応答を、デフォルトでもっと家庭教師のように振る舞わせるのだ。出来上がった結果を渡す代わりに、考え方のほうへ導く。目標は設定ひとつよりずっと広いと、彼は言う。「人間の能力が、できる限り置き換えられるのではなく拡張される未来へ向けて、私たちは進まなければならない」。

こうしたモードはすでにある。2025年7月29日、OpenAIはChatGPTの学習モードを公開した 。導きの質問を投げかけ、解答まで一歩ずつ付き添ってくれる。Claude にも似た学習モードがある。ただし手動で入れる必要があり、ChatGPTでは会話の途中で切ることもできる。通常モードは今も、すぐに、全部の答えを返す。

こうして「答えをくれ」と「ヒントをくれ」の選択は人の側に回ってくる。しかも、問題が差し迫った、最悪のタイミングで。この話でのヒントは、エレベーターではなく手すりのようなものだ。それでも自分の足で上るから、助けが消えたあとも階段が急に険しくなったりはしない。